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無事一人ひとり園児を保護者に引き渡すたび、自然と肩の力が抜ける。なのでつい、咲楽が新婚気分に浸っていたら、お迎え時間ギリギリに寺内仁の父が来た。 「いつも遅くて、すみません」 汗を拭きながら詫びる父親の豊に、今日も楽しそうだった仁の様子を伝える。 「有り難うございます。最近じゃあ咲楽先生に早く会いたいって、自分から登園準備するんですよ」 と笑いながら嬉しいことを言う。胸中、配慮した甲斐があった!と、安堵の気持ちが広がった。 仁が入園したばかりの頃は、親子共々顔が強張っていて痛々しかった。豊が咲楽の好きな俳優に似ていたので、尚更そう感じた。 不馴れな土地でワンオペ育児のストレスは、豊にとって如何ほどなもか。溜め込んで仁に悪影響があってはいけないと、今まで咲楽は努めて明るく、時間が許す限り寺内親子に接した。 「良かった~これからドンドン行事があるから、楽しみにしてて下さいね!」 仁と豊、ソックリな目元を交互に見ながら、彼女は別れの挨拶をした。 子供達が帰ると保育士達は更衣室で、動物のアップリケがついたエプロンを外す。 「ねえ、今週末だよね?温泉旅行」 同僚の堀内千香子が、キリンのエプロンをしまう咲楽に話しかけてきた。 守が友人から貰った、遅ればせながらの結婚祝いの件だ。それは、ラグジュアリーな温泉旅館に宿泊する旅行券だった。 「うん。超楽しみ!」 「良いなぁ私も行きたい~」 歳が近く気も合う千香子には、何でも話してしまう。 「どうやって行くの?」 千香子が咲楽のお腹に目をやり、尋ねた。 「車、まー君が借りたの」 彼女の視線の先に軽く手を置き、答える。 都会では不要だと持ってなかったが、咲楽の身を案じた守が知り合いから借りてきた。 そういえば先ほど、似た車が路駐していたがきっと見間違いだろう。 軽く首を振り、咲楽はロッカーのドアを閉めた。
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