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「先生、お待たせ」
守は山手線内の高台、昔からの一等地に立つ低層マンションのエントランスに、車を停めた。
「遅いよ!」
腕を組んで仁王立ち姿の女が、颯爽と乗り込んだ。
「ゴメンごめん」
助手席に座った女に覆い被さるように、シートベルトの補助をする守。薄っぺらい謝意を口にする彼に、女は呆れた視線を送りながら
「また咲楽ちゃんとこ寄ってたの?」
「バレた?可愛い奥さんを見に〜」
カチリと音がし、悪びれもしない童顔が女の間近で笑う。
「あーあ、伝説のホスト・エイトも嫁に形無し」
「えっ〜俺が婿に入ったから、咲楽ちゃん嫁じゃないし」
「屁理屈言ってないで、車出す!」
「ハイ、ハイ」
守と姉弟みたいな会話を交わす女は遠藤亜美、遠藤愛の名で執筆しているベストセラー作家だ。
一昨日守は彼女から、東京湾を囲む湾岸線ドライブを頼まれた。亜美は時折煮詰まると、強引な依頼をしてくる。
「良かったね。ちょうど俺が姐さんから車借りてる時で」
車は首都高に入り、湾岸方面へ向かっている。守が話しかけると、亜美は窓ガラスに頭をもたせかけ、黄昏時の夏空を見上げてる。
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