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「…うん、姐さんに聞いた。エイトに車貸したって」
次作の構想を練っているのか、心ここに非ずの生返事に守はやれやれと首を振った。
この時間帯にしては珍しく、合流地点での渋滞がない。心地よい流れにハンドルを任せる。
先程から二人の話に出てくる『姐さん』こと小野寺弥生は、関西地方を勢力範囲にするホンモノの姐さんだ。
彼女は年に数回、ミュージカル俳優の追っかけで上京する。その際、守の店で派手に遊ぶ。
以前その半端ない弾けっぷりに遭遇した亜美は、耳敏く弥生の事情を知り、守を通して取材を申し込んだ。
その後、出版した極道ネタの作品は、遠藤愛の新境地として高評価を得た。
亜美も弥生も、昔からの太客だ。
ときにオーナーは、客同士競わせろと言う。しかし守は異を唱えた。
人タラシの『エイト』
見た目の童顔で安心させ、友達営業が得意。なおかつ忠犬ハチ公の如く、相手を裏切らない。
だから彼の客は、経営者やセールストップ、フリーランスの第一線で働く女性が多かった。
客達は『エイト』にサシ飲みで意見を求め、彼が結婚した後も途絶えなかった。
それどころかプレイヤーから運営にまわった事で、更に『エイト』の価値が高騰した。
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