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「そう言えば、YUZUさんから下着貰ったよ」 車は何本かのトンネルを抜け、東京湾を横目に走っている。徐々にテールランプや首都高の照明が、夜を切り取り始めた。 「ふーん」 「すげぇHなやつ」 「へぇ~」 「咲楽がアレ着たら、最高!」 「キモッ」 「ねぇ、長くない?今回」 守がソロリと本題をぶちこむ。 すると、今まで上の空だった亜美が、鋭い視線とキツイ声音で返す。 「あの()が何か言ってきたの?」 「いや」 「じゃ余計なお世話。知ってるでしょ、今は彼女のターンじゃないの」 亜美には現在、男女一人ずつ恋人がいる。 作品に応じて相手を変え、被らない。亜美と同性のYUZUは、売れっ子作詞家。男性の有人(あると)は、老舗和菓子屋の御曹司だと言ってた。 二人とも亜美が店に連れて来たことがあるので、守も面識がある。YUZUの方は、ちょくちょく仕事の関係者達と来店する。亜美との仲を惚気るか愚痴るか、大騒ぎして帰る。 普段なら他人の恋愛は詮索しない。執筆が行き詰まり放っておいて欲しい亜美に、余計なお節介なのは重々承知の上で守は、 「けど、いつもより長いから、手遊びが捗っちゃうみたいだよYUZUさん」 手の込んだ下着製作は、自分以外と過ごす恋人を待つ間の趣味。アレを渡しに来た際、珍しく意気消沈したYUZUの顔が守の記憶に残っていた。 「ふん!どうせアパレル勤めの元カノから教わったスキルでしよ?」 敢えて押さえていた感情の蓋が外れたのか、亜美は強張った表情で矢継ぎ早に喋った。 「ハッ!いいじゃない、会えない切なさも寂しさも歌詞にして売れるんだから!!」
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