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夜景から視線を外さず、 「今更だけどさ、咲楽ちゃんの何が決め手だったの?」 亜美が聞くでもなく聞いてきた。 「ヤボだね」 守が笑う。 「承知の上。まあ、参考までに」 作家のサガなのか、先ほど垣間見た激情の名残なのか不明確な問いに、 「欲しかったんだ、普通の家庭」 守はウィンカーを出し、後方を見ながら答える。 「…」 亜美の沈黙に促され、先を続けた。 「初対面で彼女が優しくて真面目、欲がないのは直ぐ分かった」 車体はスムーズに車線変更し、出口に向かう。 「いつもは一見さんの接客はしない俺が、自分からはクラブ遊びなんかしない彼女の席についた…」 「運命だって言いたいの?」 早々に話を遮り、安易な恋の始まりに紐づける目上の隣人を、久々に可愛いと思った。経験豊富で辛口な文章を書く割に、存外ウブな女性かもしれない。 なら無難な答えを選択しよう。
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