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或る男3
「巡回中の警察官より連絡、容疑者、戸塚信吾を発見のこと。また戸塚は人質を一名、取っているとのこと。現場に応援を要請します。」
「了解!直ちに現場に応援を送る。戸塚を刺激しないように人質の解放に当たってくれ。くれぐれも人質の命が最優先だ。」
「俺も現場に行く。戸塚信吾本人と話をしてくる。」
「戸塚、一つお前に聞きたいことがある。」
「なんだ」
「何がお前をそこまで動かすんだ?俺は理由なしにお前が人を殺すとは思えない。なぜお前は人を殺すんだ?」
「俺の日記…見たろ?恵梨が死んだとき感じたんだよ」
「人間は死んで初めて完成されるって」
「俺は親がいないからさ、分からなかったんだ、どうして生きるのかって。今までは誰かのために尽くすことが生きる理由だと思ってた。」
「だけど…恵梨が死んで俺に生きる意味がなくなったんだよ。恵梨はこんな俺と生きたいって言ってくれた。俺は一生を懸けて恵梨を幸せにするって誓ったんだ。」
「そんな恵梨が死んでも俺…悲しいのかも分からなかった…今も感情が薄くて分からねぇんだ悲しいのか辛いのか」
「でも恵梨の顔を見て生まれて初めて美しい、というか感情を揺さぶられた、快感を覚えたんだ」
「そしたらもう抑えられなくて…人が生を全うする瞬間に快感を感じるんだ、死んでゆく姿と俺がその神秘的な瞬間に関われる、なんだか人知を越えたタブーに触れてるみたいなさ」
「でも誰も気づいてないんだよ、人は死んで初めて完成するのに、誰も死のうとしない、逆に未完成のままあろうとする、」
「だから俺が正しい道に進めてやろうって考えたんだ、これは殺人じゃない、法に触れてはない、命を奪ってるのではない、あるべき姿に戻してるだけ、人が人たる原理主義なんだよ」
「お前らにも見せてやるよ…人が生まれてきた理由、生きる理由を…」
戸塚信吾は、首に持っていたナイフを立てた。
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