或る男の完成

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或る男の完成

戸塚信吾によって刃は首を貫き、 戸塚信吾によって人間は完成した。 「戸塚の件は快楽殺人だったのですかね」 「さぁな、少なくともあの件に計画性はなかったと断言できるな」 「まぁ…そうですけど何かすっきりしない事件でした」 戸塚信吾による一連の殺人事件は、被疑者死亡により幕を閉じた。世間ではその残虐性とあっけなく幕を閉じたことにより、戸塚を歴史上稀に見るサイコパスであったり過激な新興宗教の信者として報道することもあった。 「戸塚は昔から感情が乏しかった。加えて欲求というものがなかったのだろう。ある程度人生経験を積んで愛していた恵梨さんの死が戸塚の世界を作り出してしまった」 「戸塚は人の死に快楽を感じてしまった。殺したい欲求は全くなく、死そのものに快楽を感じてしまったんだろう」 「またアイツは衝動の抑え方を知らなかったんだ、生まれて初めて感じた快楽で判断力も理性も呑み込まれて犯行に及んだんだな」 「アイツも途中で気づいたんだ、もう自分は戻れない、人を殺すのはダメだと、だから自分自身を完成させることにしたんじゃないかな」 「まぁ…その本人が居ない今、もう、分からないですけど、戸塚は…」 「もうこの話はやめだ。被害者も戸塚も浮かばれない。なんで人は生きるかも分からなくなったしさ。」 「そうですね…」 後味の悪い連続殺人事件はこうして幕を閉じた。
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