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夫からの告白
夫の西城 琢磨はIT会社の中堅社員だ。
妻である私西城 ゆり子は子供もいないので一人でずっと家にいるのも退屈してしまうので、近所のスーパーに一日4時間、平日だけのパートに出ている。
夫婦二人だけの生活だけれども、ゆり子はとても満足していた。
夫の琢磨は今、会社では結構モテているらしい。妻のゆり子から言うのもなんだが、夫はサラサラ髪で、最近はいい感じのシルバーグレーになってきている。
顔立ちは一見眼光が鋭くて恐そうに見えるが、話してみるととても砕けていて、笑った時に目じりによる皺がとてもかわいらしい。
会社でモテてしまうのも仕方がないとは思っている。
夫の琢磨とは、夫の会社に勤めているゆり子の友人の紹介でお付き合いをするようになった。
結婚する前から楽しい人だと思い、ゆり子は結婚に何の不安もなかった。
そして、結婚してからも、事ある毎にゆり子の事だけを愛していると言い続けてくれる。
それが、今夜突然夫から衝撃の告白を受けることになったのだ。
「なぁ、怒らないで聞いてくれる?」
「俺は、今、会社の中でちょっとモテ期なんだ。それは百合子も知っているよな。」
「それがさ、なぜか会社の中なのに、会社の同僚からやってくれと急に体の関係を迫られて、俺はとにかく『そんなことは絶対にできないから。』と断っているのに外階段まで本当に強引に無理やり連れていかれたんだ。」
「えぇ?それで?」
まぁ、確かにIT関連の会社なので、夜がとても遅いこともある。
「それが、俺はやっちゃった記憶がないのに、急に翌日会社に行ったら周りがザワザワしているんだよ。」
「その雰囲気で、あぁ、俺、やっちゃったんだってピンと来たんだよ。」
「はぁ?あなたその、やっちゃったって言うのは体の関係の事?」
「うん。俺、断り切れなかったんだなぁ。って自分にものすごくがっかりした。ゆり子と結婚するときに、そういうことは絶対にないようにって自分自身に誓っていたんだから。」
「それなのに、どうして、断れなかったんだろう。もっときっぱりと断ればよかったって、ものすごく落ち込んで。そしたら、目が覚めたんだよ。」
「ん???」
「悪いことをしたって、目が覚めたってこと?」
「いや、夢から覚めたんだ。」
「え?夢落ち?」
「でもさ、例え夢でもなんでもっときっぱり断れなかったんだろうってものすごく落ち込んでいるんだ。しばらく立ち直れそうにない。」
「はぁ・・・・」
「でも、夢だったんでしょう?」
「夢だけど、自分が邪な気持ちを持っていなければそんな夢も見ないはずだと思うんだ。そんな気持ちを持っている自分が情けなくて・・・・」
ゆり子はどうやって夫を慰めたらいいのかちょっとわからなかった。
何せ、夢の中の出来事なのだから。
夫の告白に最初は驚いたものの、夢落ちなので実際にはなにも起きていない。
人騒がせな夫の告白であったが、そんなことでとっても悩んでいる夫をとても愛しいと思うゆり子であった。
【了】
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