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「こんにちは」
「こんにちは。どうなさいましたか」
「話を、聞いてほしいのです」
「私で良ければお聞きしますよ」
「ありがとうございます」
「それでは・・・いいですよ」
「はい。
同じクラスに、すこし障害のある子がいました。
そこは被害妄想が強いとでも言うのでしょうか、クラスメイトが少し笑っただ
けでも、“自分のことを嗤った”と思い込んでしまうような子でした。
そして、感情的になるとシャープペンシルで自分の手を刺したり、自分で自分
のことを殴ったりすることが多々あったのです。
皆はそれを面白がったり、気味悪がったりしました。やがて陰湿ないじめが始
まり、その子を大げさに避けたり、陰口を言ったり、消毒液をかけたりするこ
とが増えました。
私はそれを、とても嫌だと感じました。でも、そう感じたことを人に話しませ
んでした。やめようとも言わずに、参加することもせずに、ただわらっていま
した。
でも、母親だけには言ったんです。クラスにこういう子がいて、こういうこと
を皆はしているんだよね、私はそれが嫌なんだよね、と。母は、人のことを思
いやれるのはあなたの長所だわ、と私を褒めました」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「大丈夫ですか?」
「ええ、はい」
「無理をしなくて大丈夫ですよ」
「いえ、続けます。
私は、自分がそうやって褒められたことで、“自分は心の清い、優しい人間な
んだ”と思いました。その時から、皆がその子を虐めているときに、皆を蔑む
ような目で見てしまうようになったんです。“可哀想な人達、自分たちが心の
狭い浅はかな人間だということに気づかないなんて”、と。私は皆がその子を
虐めている間、“私だけが、きれいな人間なのだ”と思い込み、喜びに浸ってい
ました。でも、違いました」
「・・・・・・」
「心の綺麗さって、どこで決めるんですか?」
「私にもわかりません」
「あなたにも?」
「はい。ですが、私にも、あなたにも、その子にも、その子をいじめていた人
たちにも、心の綺麗な部分はかならずあるし、醜い部分もあるのですよ」
「そういうものなのですか?」
「はい」
「なら、私の心はどうなっているんでしょうか?」
「・・・・・・私からも質問をいいですか?」
「はい」
「こころ・・・ってなんだと思います?」
「・・・・・・・・・わかりません」
「そうですか。私は、人そのものだと思います。人の感情や、人の考えは、全
て心にあるではないでしょうか」
「そうかもしれません」
「でも、それが本当なのかどうかは誰にもわからないですよね」
「はい」
「だから考えるのはやめましょう」
「そんなこと、いいんですか?」
「己の綺麗さも、己の醜さも、自分で決めればいいんです」
「醜くても、汚くても、許されますか?」
「あなたが自分の生き方に誇りを持つのならば。私はそれに見合う赦しを与え
ます」
「・・・ありがとうございます。やっと楽になれました」
「お役に立てたなのなら何よりです。それじゃあ、いってらっしゃい」
「はい。行ってきます」
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