第一章 人生で一番、後悔してることはなんですか

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第一章 人生で一番、後悔してることはなんですか

「人生で一番、後悔していることを教えてください」  真っ白な雪が、しんしんと降り注いでいた。  二月。暦では如月だというが、個人的に好きなのは雪消月(ゆきげづき)だったか。あやふやな記憶の中で、丸い窓枠から見えた冬の風物詩に目を細める。音もなく、どんよりとした空から落ちる雪は、辺り一帯を銀色の世界へと瞬く間に変えていた。あれ、いつからこんなに降っていたのだろう。  渡来 鏡花(わたらい きょうか)は、その光景を、初めて訪れた店でぼんやりと眺めていた。  とても辛いことがあった気がするのに、思い出せない。まるで降り積もる雪で覆われていくような、あったはずなのになくなっていくような、ふしぎな感覚に陥る。それも、溶けてはまた露呈するというのに。  でもなにが。 「お客様」  声がかかって、鏡花はぼんやりと顔を上げた。  その先には、若い男の店主が、にこりと微笑んでいる。  着物のベースは白く、袖口は黒で引き締められ、足元に金色の鶴が施されている。着物がこんなにも似合う男性は珍しい。この人から滲み出る清潔感と気品さに圧倒されたというのに、その顔を見て息を呑む。すっきりとした目鼻立ちに、薄い唇。骨格までもが彼に味方しているその風貌に、白銀に輝く髪。鏡花はふと思い出す。『人生で一番、後悔していることを教えてください』  ハッとした。そうだ、私は問われていた。  鏡花は自身の後悔について思案してみるものの、今まで自分がどのように生きてきたか思い出せない。ぽっかりと抜け落ちているというよりも、白い靄で覆われているような。 「やはり、記憶が保っていられないのかもしれないですね」 「保っていられない……」 「ただ、あなたはまだ向こうとつながっていらっしゃるので……どうしたものか」  店主は思案するような視線を見せ、その後、目元と口元を緩ませた。 「ご飯にしましょうか」
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