回顧録・前半

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 人混みは嫌いだった。集団生活は耐えられなかった。うるさすぎる。どこまで行っても声が聞こえて耳障りだった。  声に耐えられなくて、十歳のとき、学校で鉛筆を耳に刺してしまった。ブツンと衝撃が走り、弾けるような痛みを感じた。しかし、声は鳴り止まなかった。私は力なく笑ってしまい、同級生から気味悪がられた。  だから私は音楽を聴くようになった。それも騒音じみたものだ。ロック、パンク、メタル、インダストリアル、ノイズ、ともかく次々に試して、私から声を遠ざけてくれるものを探しあぐねた。ヘッドホンは私にとって手放せないものとなった。  私はありとあらゆる人から距離を置くようになった。機械ばかり触るようになり、私は工学を学ぶために大学に進んだ。
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