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…あ?大きな星が、ついたり消えたりしている…。
あっはっは。あぁ、大きい!
彗星かなぁ?いや、違う。違うな。
彗星はもっとこう…バァーって動くもんな!
…寒っ苦しいなぁ、ここ。
うーん、出られないのかな?
おーい、出して下さいよ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
自分自身の意識が乖離して、車中から飛び出す感覚があった。そしてそのまま浮遊して、崖下に転落した愛車を見下ろしている…。おそらくは、あの中に自分自身がいるのだろう。俗に言う、「私が私を見つめていました」ってやつだな。ありえない?それが、ありえるかも!
意識はどんどん舞い上がって、いつしか周りは星空のような景色になった。きらきら光る、お空の星よ。瞬きしては、みんなを見てる…。いや、星じゃないな。よく見れば、一つ一つの明かりの中に俺と言う人間の体験が映像として流れている。まるで、いまわの際にこれまでの記憶が浮かび上がるめくるめく走馬灯のようだ…。と言うか、文字通りの走馬灯なんだろう。
また「景色」としてだけじゃなく、俺自身の意識の中でもこれまでの記憶が蘇ってきたぞ。
『金髪だ!萌えええええ!』
『ちゃんと染め直さないと、駄目だぞっ☆』
『母さんがし○むら行って買う、二枚で980円くらいのペラいやつですよ…』
『ゔゔゔゔゔ(訳:まったりとしてその上コクがあり、それでいてクドくない)』
うん、ロクな思い出がありゃしねぇ。とりあえず『景色』の方に集中するか…。読者様に対する、俺と言うキャラの紹介も兼ねてね。
(旧姓)伊勢嶋雪兎。20年とちょい前に、群馬県は高崎市にて生を受けました。実家は同市内に根ざした、由緒ある個人病院。いわゆる一つの、お金持ちですね。男ばかり四人兄弟の四番目、末っ子です。兄三人はそれぞれ方向性の異なるド変態ですが、俺一人だけが至って正常な人間として生まれました。まぁ、ほんの一つだけホモだと言う個性があるにはあるんですけど。
兄らの性癖が歪んだ一因として、幼少よりの詰め込み教育が考えられます。いずれも医者を目指して、人間離れした猛勉強をしていましたから…。まぁ、決して無理強いされた訳でなく本人らが望んでした結果なんですけども。
俺は、幼少から彼らの動向を目にしていて…。何となく、自分には無理だろうと思ったんですね。学力は元より、「自分」を捨ててまで何かを目指すのが合わないなと思ったんです。それよりも、大好きなアニメ鑑賞やBL小説の創作に打ち込んでいたいと。両親からも「兄たちは頑張っているのに、お前ときたら!」みたいなのは一つもなく、至って自由に振る舞わせてくれました。
ただまぁ、自由と引き換えにある種のコンプレックスを抱いていたこともまた事実。学力や偏差値はもちろんの事、身長やら容姿…。それらが、三人の兄に遠く及ばない事を痛感したためですね。
それでも、世間一般の目安に照らし合わせて言うとだいぶ幸せな部類でしょう。実家は、言った通りの大金持ち。金だけでなく地元での権力もあるので、俺の事を苛めようとする命知らずはいません。家族もみな優しく、特に爺ちゃん婆ちゃんからは可愛がられて蝶よ花よと育てられました。
中学時代に、現在の主人である長谷川理玖と出逢ってお互い恋に落ちました。そのまま交際が続き、一昨年ついに結婚へと至った次第。鉦や太鼓を叩いても探せと言われる、年下の男の子です。
夫との生活で、不満を感じた事は一度もありません。強いて言えば多少精力が絶倫で、変態的なプレイが殊の外お好きな事くらいでしょうか。だから俺は、生まれてから今までとっても幸せだった。そして、これからもずっと幸せであり続ける筈だった…。
理玖…。そうだ、りっくん。今どこで、何をしているんだろう。いやまぁ、地元ロサンゼルスで試合に興じている最中でしょうけど。俺一人が一時帰国して、群馬の山中にて執筆に勤しんでいた次第ですね。
彼と、また会いたいなぁ…。うぅ、会いたいよぉ。
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