マスターのモノローグ

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 最初の妻という言葉から、この方は再婚しているとわかりました。 「ということは現在は再婚なさっていると」 「いや──いや、そうでもないか」  最初のいやは強い否定でしたが、そのあとのいやは、どう伝えればいいのか分からないという感じでした。 「最初の妻の葬儀のあと、親身になって支えてくれたのが大学時代の後輩で、そのうちに好きあって一周忌を過ぎたところで入籍した。小柄でおかっぱ頭で明るく元気なところが好きだったな」  またしても過去形でした。 「だったな? もしかして──」 離婚なされたのですかと言うつもりでした。 「ああ、死んだ。転落死だった」  まるで死別が当たり前のような言い方でした。 「──ただ、訊きたいことはあったな」 「なにかあったんですか」 「最初の妻が轢き逃げされて、いまだに犯人はまだ捕まってないんだ」 「はあ」 「あの日、二度目の妻は体調が悪いというので病院に行ったんだよ、そして妊娠しているのがわかった。  たぶんそれで油断したんだろうな。僕に電話して帰るところで階段から転げ落ちて、首の骨を折って死んでしまった。  葬儀を済ませしばらくして遺品の整理をしたときに、僕は見てしまったんだ、彼女の運転免許証を。二度目の妻は運転免許を持ってない、クルマを運転できないと言ってたのに……」 「どういうことなんです」 「最初の妻の轢き逃げは目撃者がいたんだが、運転手がいなかった、まるでクルマがひとりでに動いていたと言うんだ。けど、小柄な女性が運転していたら──」  お客様の言いたいことがわかって、私は黙りました。 「しかし、もしそうだとしても動機がわかりません」 「だから言ったろう、モテるんだって」  自嘲気味に言うその言葉から、まさかという考えが浮かびました。しかしそれを口にすることはできません。  それを察したのか、お客様みずから言いました。 「たぶん、いや、間違いなく僕と結婚するために殺したんだろうな。確かめられないけど」 「いやしかし、それはあまりにも短絡では。失礼ですが、既婚者を誘惑して奪うという方がまだわかります、いくらなんでも……」  私はお客様の憂鬱の原因がわかった以上、考えをあらためる方に話を持っていこうとしました。  けど、けどです、お客様はさらに不可解なことを言い始めたのです。 「その証というか、僕はまた結婚した。三人目の妻を娶ったんだ」
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