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プロローグ
──休日があと一時間も無い深夜、静かなBARで私たちは飲んでいた。
カウンターの向こうでは、明日が休みのマスターはすでに片づけを終わっていて、私たちのグラスを洗ったら帰るばかりという感じだった。
「ねえ探偵さん、なにかいいネタないかな」
「守秘義務があるからねぇ、ちょっと言えないな。小説家なんだからイチから考えたらどうなのよ」
「今回は思いつかないんだよ、何か元ネタがないかなぁ。締め切りまでもう日にちが無いんだよ」
「そうは言ってもねぇ」
顔見知りの探偵は初老の私と歳も近く、よく話す間柄だが、仕事とプライベートは割り切っているのでいつもならこんなコトを言わない。だが、さすがに追い詰められていたので訊いてしまった。
「それならマスターに訊いてみなよ。仕事がら色んな話を聞いているんじゃない」
探偵は苦し紛れに矛先をマスターに向けさせ、それを受けたマスターはおやおやという顔をしながら私たちの前に立つ。
歳は私たちより上のようで、ベテランらしく人懐っこい顔で苦笑しながら首を小さく振る。
「私だって守秘義務がありますよ。お客様のプライベートを話すわけにはいけません」
「お客さんじゃなくて、うわさ話程度でいいからさ、何かないかな」
私の言葉にマスターは困った顔をするが、こちらも困っている。話しやすいようにもう少しこちらの立ち場を伝える。
「[告白]というテーマでコンテストがあって、それに参加したいんだよ。なにかお客さんの愚痴かネタ話で、そういうの聞いたことないかい」
「告白ですか……そういえば昔、ものすごく奇妙な話を聞いたことありますね」
「え、どんなの? どんなの?」
食い気味に訊く私に対して、やれやれという空気を少し感じさせながら、洗ったばかりのグラスに水を入れる。
「ずいぶん昔の──昭和の頃の話ですよ。タイトルを付けるならそうですね……モテ過ぎた男、というところですかね」
そう言うとグラスの水をひと口飲んで喉を湿らせたあと、静かにマスターは話し始めた。
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