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それから3日後。景壱の言っていたように、警察が私を訪ねてきた。どうして私の住所がわかったのかと思えば、SNSの本社でアドレスを入手し、そこから来たらしい。よくわからないけど、捜査関係だと手続きさえしたら個人情報なんて簡単に開示されるもんなんだ。
警察は私にあの女の投稿を見せてきた。嘘を吐いて私が疑われるのも嫌だ。素直に捜査に応じてやろう。警察に事情聴取されたってこともネタになるし。
彼女が私に対して送ろうとしていた内容が明らかになった。
「わかりました。死にます。ご忠告ありがとうございました。さようなら。」
は? 何それ? そんなものを私に送ろうとしてたっての? 頭おかしいんじゃねぇの? って、すでに死んでるからどうでも良い。だけど、そのクソのような返信をつけられたせいで、私は自殺のなんちゃらって罪に問われているらしい。イジメだとかそういうのはしていないってのに、迷惑な話だ。
私が熱心に調査に協力したから、警察は帰って行った。因果関係が無いと私が罪になることもないし、これも経験ってやつっしょ。いやぁ、良いネタになりそう!
さっそく、今の内容を書いて投稿した。すぐにいいねする人がいる。読まずにいいねすんな。読んでからいいねしろ! まだわかってないのかよ頭に脳味噌入ってねぇのか。
鍵をかけてアカウントを非公開にしているお陰で荒らし行為にはあわないけど、作品を拡散できないのは勿体ないな。私の作品を好きな人もたくさんいるってのに、広めてもらえないのは困ったもんだね。
春雨はいつものようにたくさんいいねとシェアされている。どうしてこいつばかり人気になるんだ。有償リクエストもまた貰ったようだ。どうせフォロワーだし、取り巻きだろ。私は全く知らない人から有償依頼でイラストを描いたことがあるんだ。向こうがラフを送ってきてたけど、あまりに下手過ぎてわかんなかったから、デザインして描いてやった。デザインしてやったんだから依頼料に上乗せしてくれても良いくらいだってのに、求めたものと違うって評価くらった。二度と依頼してくんなよって感じ! そっちが描いてくださいって言ってきたから描いてやったのに、その言いぐさはねぇだろほんと。ナメてんのか。
ふとタイムラインに妙な投稿が流れてきた。春雨の投稿だ。
「お月様www警察に怪しまれてるじゃんwww」
その投稿に対して、猫乃が「アカウント間違えてるよw」と返信していた。
腹立つ。私は知ってるんだ。お前らが裏で私の陰口ばかり叩いてることを。ここで全部ぶちまけておいてやろう。
私の陰口を裏でコソコソ言わずに、何かあるなら直接言いにきてください。正直言って、あなた達がやっていることは、イジメと変わりません。何かあるならDMに来てください。
よし、これで良いや。
いいねがついた。またこいつか。何ですぐにいいねするんだよ。既読感覚でいいねしてんのか? 全然良くない内容だろうが!
DMの通知だ。今は相互フォロワーしか送れないようになっているから、誰かと思えば、猫乃だった。
「こんにちは。いつもお世話してます。猫乃です。ここ数日、月宮さんをフォローして思ったんですが、他人の気持ちを考えて投稿されていますか?正直言って、色んな方向に喧嘩を売っているので、考えを改めたほうが良いと思います。ウエメセの自覚がないようですので申し上げますが、あなたはずっと上から目線で嫌悪感しかありません。もう少しご自分の投稿を見直してから投稿してください。あと、グラッセは焼かずに煮る料理です。料理上手のキャラが痛恨のミスをしているので、きちんと調べたほうが良いですよwそれでは返信は不要です。失礼しました。」
なにこれ腹立つ! ブロック! 二度と私の前に姿を現すな!
やっぱり気持ち悪いものばかり作ってる人には、私の作品の良さはわかんないんだな。あと、私のほうがイラストも小説も上手いんだから、当然だと思うけど? ウエメセ? お前がウエメセしてんだろうが! マウント取ってくるのやめたほうが良いと思いまーす。大草原!
猫乃をブロックしたから、春雨が何か言ってるかと思ったら、先にブロックされていた。は? 何で? せっかく私がイラスト褒めてやったり、文章褒めてやったりしてんのに、何でブロックしてんの? どいつもこいつもクソだな。
春雨の本も捨てちまうか。作品は悪くないけど、置いてるだけで不快だもの。一応新刊の中身だけパラ見しておくか。使えそうなネタがありそうだし。召喚術だからどっかの本をパクってるだけだろ?
そういえば、有名どころばかりの中に混ざってる夕焼けの精霊の召喚が気になるんだった。景壱もこれに関しては褒めている様子だったし……。
私なら、この精霊も召喚できるのでは? 既に雨の神も召喚してるくらいだ。
必要なもの……鏡と布。それだけで良いの?
鏡に夕焼けが映るようにして……、ちょうど晴れているし、夕焼けも出ている。運が私に味方してる!
鏡の前で手を三度叩き、右に一回転。手を二度叩き、左に三回転。手を一度叩き、右に一回転し、鏡に布を被せ、呪文を三度唱える。
「いあさづきそこあましえりえそねかゆうや、いあさづきそこあましえりえそねかゆうや、いあさづきそこあましえりえそねかゆうや」
言いづらいったらありゃしないけど、覚えてきちんと唱えられた私すごい! やっぱり天才だわ。
鏡に被せた布を外す。夕焼けが部屋中に拡散し、眩しくて目を閉じた。
「こんにちは」
その声は、確かに前から聞こえた。
私は目をゆっくり開く。鏡に私の姿は映っていない。代わりに、少女が目の前で笑っている。
鏡の中には、夕焼けを切り取って貼り付けたかのような色の髪に秋の燃えるような赤い空のような目の少女がいた。きっと、これが夕焼けの精霊だと思う。春雨の本の特徴そのままだ。
にんまりと裂けた口から尖った歯が見えた。
「私は、あなたに永久の安らぎをお約束いたします。痛みや苦しみ、ありとあらゆる悪想念から解放いたします。邪神を祓うことも、できますよ」
そう言って、少女は鏡のフチを掴む。まさか、ここから出てくる……?
ごきゅ、ずりゅ、ばき……っ。
骨が折れるような不快な音をたてながら、少女が鏡から抜け出してきた。
「私の名は、こやけ。夕焼けの精霊でございます。以後お見知り置きを。召喚者さん」
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