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「その本の表紙さ、春雨さんのと似てるよね? パクられた?」 「構図自体は誰もが使うポーズ集のだから、かぶることもあるって。私が気になってるのは、表紙よりも本文。サンプル読んだ時に面白くてさ」  ほら、やっぱり嫉妬してるだけだ。私のほうが絵も上手いし、文章も上手い! 面白いって言ってるじゃん。  春雨さんはページを捲っていく。読んでいる感じは全くしない。速読してんのか? それとも一回会場で読んでたのか?  ページを捲る指が止まる。 「ここ! 読んでみて!」 「はいはい。……え。何言ってるかさっぱりだが?」 「さっぱりっしょ。ここ意味不明過ぎて好きだわぁ」 「もしかして、これ見るためにこんなつまらんパクり本買ったん?」 「パクりってはっきり言ったら可哀想っしょ。お月様はメンタルよわよわなんだから」  は? パクりって何? 私が資料集めて、考えて書いた小説をパクりって何だよ。  フォロワーのファンタジー作家が投稿してたネタとラブコメ作家のネタ使ってるだけじゃん。2人ともまだ作品にしてないんだし、パクりにはならないでしょ。ネタの段階だから、本編じゃないし。ネタかぶりもよくあることだし!  嫉妬深くて困るわぁ。ほんっと、こういうやつら大嫌い。イラストは好きだけど、中の人は嫌いだわ。まあ、作品買ってくれっから、アンチファンとして扱ってやらないこともないか! 「この表紙ほんっとやばいよね。複雑骨折してるじゃん。頭の形もおかしいし、手も左右逆じゃない? そういう奇形キャラ?」 「ファンタジー作品だから」 「あー、察し!」  何が察しだ! 死ね! 死んじまえ! 嫉妬してんじゃねぇよ! 私のほうが絵も上手いんだから、羨ましいんだろ? 面白い話を書いてるから、妬ましいんだろ?  顔を上げる。再び景壱と目が合った。少し上がった体温が下がっていく。冷えた眼差しが、怒りを抑える。頭が冷えた。 「ククッ、嫉妬深いと困ったものやね」 「ほんと、困る。私の才能に嫉妬し過ぎ!」  絵は好きだけど、やっぱり作者は嫌いだ。もう本を読む気にもならない。そもそも絵しか見てねぇけど。  召喚しなくても、既に私の前には神がいる。このほうが、自慢できる! 「まだ知りたい?」 「もう良い。飽きた。それよりさ、それ使って私の作品への感想とか教えてくれない?」 「俺が知らないことは、教えられない。俺はあなたの作品を知らないし、見てもいない」 「webでも読めるから、読んで! そして感想くれ!」 「……そう」  すぅっと細まった目は憐れみを含んでいるようにも見えた。さっきの嫉妬に狂ったバカ共を憐れむなんて優しい神だ。邪神って書いたの、春雨じゃね? この本だって、色んな本のパクりだろうがよ! 他人のネタ集めて我が物顔すんなっつーの!  液晶画面を細くて長い指が滑る。景壱の爪は短く切られているけど、マニキュアが塗られていた。青いマニキュアだ。目の色よりは明るくて、髪の色よりは暗い。 「爪が折れやすいから、保護するために塗ってる」 「私の心が読めるの?」 「さすがに心までは読めない。おおかた、考えていることはわかる。あなたは爪を見ていたから、爪に関する疑問があるはずだ。疑問として考えられるものは2つ。爪が短いから楽器をやるのか、マニキュアをしている理由か。あなたは音楽関係には疎そうなので、マニキュアの話題を選んだ。正解やったみたいやね」 「何で私が音楽に疎いって思うの?」 「あなたの部屋には、音楽関係のものが一切無い。CDが1枚くらいあってもおかしくないが、何処にも見当たらない。ここから考えられることは、CDを買うほど好きなアーティストがいない、音楽配信サービスを利用していてCDが必要無い、データで購入するのでCDは無い等々。そして音楽に興味が無いならば、楽器にも疎い可能性がある。だから、楽器の話をふることは極めて無いと言える。なお、俺はギターを弾けるし、ピアノだって弾いてみせることが可能」  別に知りたくもないことまで長々と話し始めちゃったよ。本当に意味不明だし、わけわかんね。  けど、神様ってのはそこまで瞬時に判断できるのか。かっこいいじゃん。さすが、私に仕える神なだけあるね。「時間を代価に」って実質タダってことだし、タダで神様を使いたい放題できるの最高じゃん。ネタも提供してくれっし、こりゃ楽だわ。 「それで、あなたの書いた話やけれど……」 「読み終わった? 面白いでしょ?」 「そうやね。今までに読んだことがないような作品やった。俺の知らない世界を知れた。ありがとぉ」 「どういたしまして。けっこう言われるんだよねぇ。今までに読んだことがないような作品って! やっぱさ、オリジナルティがあるっつーの? 嫉妬されちゃうわけだ」 「……ククッ、はは、面白い。なるほど。なるほどな、ははは」  また急に笑いだして怖い。雑音のような、理解の範疇を超えた笑い声が怖い。乾いているのに、妙に湿っぽいような、変な音だ。  それにしても、神にまで「面白い」とか「今までに読んだことがないような作品」とか言われちゃうんだから、やっぱり私は小説も上手いんだ。イラストも描けるし、マルチクリエイターとか絵文両刀とか言えちゃうわぁ。 「あなたは知らないようだから、教えてあげよう。有名なグルメレポーターに質問が届いた。それは『宣伝を依頼された店の料理がまずかった時、どうコメントをしますか』といった内容だった。彼はこう答えたという。『今まで食べたことのない味だ』と」 「はぁ?」 「一見褒め言葉のように感じられるが、これは悪いことを隠す言葉としても使える。俺の先程の感想を要約すると『あなたの作品はつまらない』になる。これで、わかった?」 「わ、わからない!」 「わからない? まだ脳の処理速度を合わせる必要があるか。それとも言葉の言い換えが必要か。何がわからないか教えてくれ。改善してもう一度説明しよう」 「私の作品は面白い! みんなそう言うもの!」 「そうか。理解はできていたらしい。それなら、この作品は俺の好みではなかっただけ。人間なら『面白い』と言うかもしれない。しかしながら、お世辞やよいしょの可能性も高いということを努々(ゆめゆめ)お忘れなきよう」  やっぱり神だから、感性ズレてんだよね。こういうのは人間の感想のが良いわ。
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