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フライパンを熱してオリーブオイルとニンニクを投入。切った材料を入れてあたしは炒め始める。
「いや、いやいや、昨日のはね、なんて言うか、あたしも酔ってたんだわ。だからさ、お酒の勢いっていうか」
最近ほんと一人でいるのがなんか寂しくて。久しぶりにキスされて、優しくされて、あたしもおかしかったんだと思う。
「え?! それって、俺遊ばれたの?!
ひどっ!! 一夜限りなんて絶対にやだからね!俺の体はもう実智ちゃん以外受け入れられないんだから、ちゃんと責任とってください!
ってことで、ここに置いてください」
ケチャップを握りしめた手に力が入って、思った以上にフライパンの中へと落ちてゆく。
「だから、なんでそうなるのかな」
急に子供みたいに怒り始めちゃったけど、そんなこと言われたってなぁ。
動揺を隠しながらケチャップで野菜を炒めてナポリタンを完成させる。
お皿に盛り付けて望くんの目の前に置いた。
「責任は持ちます」
だって、明らかにあたしの方が大人だ。若い子に言い寄られてつい嬉しくなって久しぶりのキスに舞い上がって、つい最後まで許してしまった。
「ちゃんと、望くんに可愛い若い彼女が出来る様に協力するから。遊びだったわけじゃないんだけど、あたしは望くんのことは好きにはならない」
「なんでだよ!!」
未来あるキミにこんな夢も希望もなくした女は似合わないんだよ。
虚しいから口には出さないけどさ。
「あたしは今の生活が好きなの。好きなことして自由で。キミがいたら自由もなんにもなくなっちゃうから。だからこれ食べたら出てってください」
ぺこっと頭を下げてめちゃくちゃ困った悲しい顔でもしてみよう。そうしたらきっと望くんも諦めて……。
「……って! え?! ちょっと! なに?! なんで泣いてんの?!」
顔を上げると、歯を食いしばってうるうると今にも溢れんばかりの涙を溜め込んだ瞳がこちらをじっと見つめていた。
「……分かった」
頷いた瞬間に大粒の涙がボトボトっと落下する。
「……いただきます……」
小さくつぶやいて手を合わせた望くんはフォークでナポリタンをくるくると巻き取り口に運ぶ。
たまに嗚咽を漏らしながらも、ゆっくりと食べて、「美味しい」と満面の笑みを向けてくれた。
え、ちょっと待って。
あたしが完全に悪い様に思えて来たんだけど。
急に目の前の子犬……いや、望くんが哀れに見えて来てしまう。
なんとかしてこのままここにおいてやることは出来ないだろうか?
あたしの思考がそんなことを考え始めてしまって、慌てて首を振った。
まずいまずい。これは望くんの罠かもしれない。きっと今までもそうやって幾多の女子を陥れてきたに違いない。
高校以来ヤッてないとか絶対に嘘だよ。流されるな。あたしは絶対に望くんのことは好きにならない。
次付き合うなら即結婚を前提にお金も地位も歳もあたしより上で包容力満載の大人な男の人にするんだから。
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