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連絡先も結局交換しないまま追い出してしまった。なんとなく気が抜けて、ソファーに脱力して座り込むとスマホを掲げた。
とりあえず、友香に聞いてみよう。
……いや、寛人か? 寛人の方が直に望くんと接しているんだろうし、そっちに聞いた方がいいのかな。
うん、そうしよう。
画面から寛人の名前を探し出してタップした。
日曜だし、仕事はしていないとは思うんだけど。
そう思いつつ出るまで時間がかかるだろうとケトルにスイッチを入れようとした瞬間に、聞きなれた声が耳元をくすぐる。
ーー……っんー、どうしたぁ?実智
思わず、スイッチを押す指がブレてしまう。
なんなのその色気全面に出した声。
「……ね、寝てたの? ごめん」
寛人に電話をかけるのは、実は苦手だ。
スマホ越しのこの声が、あたしの好みにどハマりしている。会って話す分にはそこまで感じないんだけれど、どうしてスマホを通すとこんなにイケボに変わってしまうのか教えてほしいくらいにかっこいい。しかもあきらかに寝起き。
「もうお昼過ぎてるよ? 昨日も飲みに行ったの?」
ーーあー、いや? 昨日は仕事。休み前にどうしても終わらせたくて遅くなっちゃって……って、そんなことより、どしたの?
だんだんと覚醒していく声がまた素敵。
「あ、いや、ちょっとさ、聞きたいことがあるんだけど」
今は望くんのこと。
ーーなにー?
「寛人んとこの新人のさぁ」
ーーああ、望? なに? あの後なんかあったの?
速攻で返事が返ってくるから話が早くて助かる。しかも質問しすぎ。
何かあったかは言わないけど、いや、言えないけれど。
「そう。望くんって、家ないの?」
ーーんー、そうだねー。
はははっと、他人事な言い方の寛人に少しムッとしてしまう。あんな捨てられた子犬みたいに涙目になられたら可哀想になっちゃうのに、知ってたら笑えない。
ーーなにー? あの後一緒に住むことになったとか?
「からかうように言ってくるけど、そうなりかけてるから電話したんだよ」
思わずため息を吐き出してしまう。
「寛人どうにか家探してあげれないの? 上司でしょ?」
ーーってか、望、昨日までうちにいたんだよ?
ずっと世話してたの。それが突然住むところ決まったから出て行くって。それもあって安心したのと、めちゃくちゃ疲れてて、今日はようやく一人の休みでゆっくり寝てたのに。
また望の話だし。ってか、ここ出てってまじで実智んとこ行ったの?
今度は寛人の深いため息が聞こえてくる。
「え? 寛人のとこにずっといたの? そりゃ休まらない日々だっただろうね」
ーーえ、なに? 望と実智ってマジな知り合いだったの?
驚いたような声の寛人に、あたしは可愛い可愛いお隣ののんちゃんの昔話をしてあげた。
ーーへぇ。なんだよ、じゃあ姉ちゃんとして望のこと面倒見てやれよー。そこまで年離れていたら別に間違いも起こんねーだろ。
はははとまたしてもスマホ越しに笑われて、あたしは言葉を失った。
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