1.再会、溺れる夜

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「ごめん。付き合えない」 「なんで?」  え? いや、こっちがなんで? だよ。 「……あたし……三十過ぎてるし」 「うん、知ってる」 「あ、そう……って、え!? 知ってたの?」 「うん、知ってるよ。ちなみに過ぎてるって言っても、三十になったのは先月でしょ? 先月までは同じ二十代だったんだし。気にしないよ?」  いや、あたしが気にする。  って言うか、なぜあたしの誕生日が先月だと知っている?  そっちの方が気になるんだけど。 「ぶはっ! 色々考えすぎだよ! 表情コロコロ変わって可愛いんだけど」  だからさ、天使なの? 君は。笑顔の君の方がよっぽど可愛わよ。  簡単に言わないでほしい、可愛いとか。  たまらずため息を吐き出してしまう。 「……今、彼氏いないんでしょ?」 「いないけど……」  彼氏云々の前にだ。 「歳の差気にしてる?」  うん。そこ、大事じゃない? 「やっと……大人になれたのになぁ」  悲しそうに眉を下げて、拗ねてる様な望くんが可愛い。 「もっかい、していい?」 「は? なにを……」  まただ。避けれたはずなのに。  受け入れちゃってる。  さっきよりも深く、長いキス。  望くんの腕があたしの腰へ絡む。  ほんのりアルコールの味がして、離れていく唇が惜しくなる。 「実智ちゃんち、行ってもいい?」  にこっと、でも、余裕のないようなその笑顔にどうなるかなんて分かっているのに、望くんを家まで連れてきてしまった。  あー、なにやってんだあたし。  ちょっと気のあるふりされて、可愛いとか言われて嬉しくなっちゃってる。  玄関先で望くんがすぐにあたしを抱きしめてきた。勢いでシャツのボタンを外し始めるから、なんとか宥めて今シャワーをあびてもらっている。  シャワーで酔い覚ましてくれないかな。  なんでこんなとこ来てしまったんだって、現実を受け止めて帰ってくれたら、それでいいんだけどな。  静かすぎる部屋に耐えられなくなって、音楽をかけた。  初めて付き合った人の好きだった曲。あの頃は良かったな。好きだと言われて嬉しくて、こんな煩いロックな曲も彼に合わせようと必死に覚えて。気が付いたら、好きなバンドになっていた。  あたしの恋愛とは真逆にこのバンドは右肩上がりに売れていった。  遊び人だった初カレとは、すぐに破局した。  問題はその後に付き合った彼だ。  未練なんてないって自分で思っていても、やっぱりまだたまに思い出してしまう。付き合った年月も長かったから、余計にタチが悪い。  もう、彼と別れてからどのくらい経つんだっけ? 「実智ちゃーんっ、俺のいる空間で他の男のこと考えないでくんない?」 「……!? ちょ、ちゃんと拭いてきてよ!」  髪の毛から滴る水滴をかきあげて、あたしを怒るように見ている望くんに驚いた。 「あれ消して」  怒っているような声と顰めた眉。 「ん? 音楽のこと?」 「そう、消すか違うアーティストにして」  言われるままに、あたしは別のアーティストの曲に変えた。  まぁ、あたしもさっきの曲は色々思い出してイラつくから、変えるのは全然良いんだけど。  なんでそんなに怒っているんだ?
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