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それにしても、なんで望くんはあたしのことを色々と知っていたんだろう。
あたしが覚えていないだけ?
あー、最近物忘れ激しいからなぁ。もしかしたらどっかで会っていたのかもしれない。
思い出せない、思い出せ! あたし!
両手で頭を押さえつけて、懸命に記憶を絞り出す。
ーー僕、実智ちゃんと結婚する!ーー
遠い記憶の中で、望くんの笑顔とその言葉がリンクする。
あたしの家の隣に住んでいた、のんちゃん。
小さくて可愛くて、あたしの周りをいつもちょこまか走り回っていた男の子。
一人っ子のあたしはのんちゃんを自分の弟のように可愛いがっていた。
まさか……あの、のんちゃんが望くん?
ーーやっと……大人になれたのになぁーー
きっとそうだ! のんちゃんだ!
小さい頃から可愛い顔はしていたけれど、あんなにイケメンに育ったのね。大きくなって……なんだか嬉しい。
……って、まて。
待て待て待て。
あたし、のんちゃんとキスしたね、濃厚なやつもしたね、危なく一夜を共にするところだったよね?
やばい、やばい、やばい。
よかった、マジで。
のんちゃんが思いとどまってくれて。
もう会うこともないだろうし、懐かしい人に会えたってことで、良しとするかぁ。
脱力してベッドへ倒れ込むと、玄関のチャイムが鳴った。
時刻は午前一時半。
こんな時間に、誰。
恐る恐るドアスコープを除くと、そこに見えたのは泣いているように歪んだ顔の望くん。
急いでドアを開けてしまう。
望くんはすかさず玄関へと入り込んでドアを閉めると、ガチャリと鍵を閉める音。
ん?
「やっぱり今日、泊めて」
ニッと笑顔の望くんは泣いてなんかいない。
再び部屋に上がり込み、あたしが出したお茶を啜る。
「……のんちゃん、だよね?」
あたしの問いかけに、望くんがピクリと反応する。
「あたしの実家のお隣の、小さくて可愛いのんちゃん、なんだよね?」
またもや眉間に寄る皺を見て、あたしは声が徐々に小さくなっていく。
「分かっちゃった?」
「……うん」
「じゃあさ、なんで俺があの曲が嫌いかも分かるでしょ?」
あの曲。
だから、それ。なんで?
あれは、高校の時に付き合っていた初カレがよくバンドでコピーして歌っていた曲。たまにあたしの家に遊びにきた時に歌ってくれたりしていたけれど。
あれ、あの時確か。
のんちゃんもあたしの部屋にいた気がする。
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