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「彼氏に生歌歌ってもらって、すっげぇ嬉しそうな顔してさ、あの後俺、あの部屋から追い出されたんだよ。なんで追い出すのか意味分かんなくてさ、そっとドア開けて驚かそうとしたら、実智ちゃんとあいつがキスしてた」
望くんのギロリと鋭い視線が突き刺さってくるけれど、あたしは身に覚えがあり過ぎて左右へと目を泳がせた。
「……や、やだ、見てたの?」
「見ちゃったんだよ。仕方ねーだろ。だから、あいつもその歌も大っ嫌いなんだよ! その後……」
「うわーーーー!!」
ちょっと待って! それって、それってさ、歌ってもらって、キスされて、その後って。
「あいつが俺のこと気が付いて、見んじゃねえって睨まれたから逃げた」
あ、そっか、それなら良かった。
ホッと胸を撫で下ろすのも束の間。望くんの勢いは止まらない。
「あの時確実にヤッたよな?! 夕方まで親いなかったし」
あー、うん。そうだね、その通りだよ。なんと懐かしい思い出。
「俺悔しくて、でも、なんで悔しいのか分かんなくて。実智ちゃんを取られたのが悔しいんだって、早く実智ちゃんに追いつきたいって必死に勉強したし運動も頑張ったんだよ」
「……確かに、あの辺りからのんちゃんの姿を見かけなくなった気がする」
いつまでもあたしのことをお姉ちゃんだと思って、頼ってきてはくれないよなって、少し残念だった。
「ねぇ、俺酒も飲めるようになったし、キスもそれ以上も上手くなったよ? だからさ、俺と付き合ってよ。実智ちゃんじゃなきゃダメなんだよ」
あたしに近づいてきてまたキスをされる前に、添えられた顎の手を掴んだ。
「なんかさ、それってただあの時のあたしの彼氏に張り合ってるだけじゃない?」
「……え」
「うん、たぶんそうだよ。小さいなりに、仲良くしていたあたしを取られた気がして、ショックを受けただけ。それに意地張っちゃったんだよ。お酒が飲めるのも、キスが上手くなったのも、あたしの為じゃなくて、自分の為だよ。だからさ、ちゃんと、大事にしてあげられる子を見つけてよ。実智ねぇちゃんからは、それが最善のアドバイスだよ」
望くんには、ちゃんと恋愛してほしい。
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