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「……なん、だよそれ。どこまでも俺は恋愛対象外なの? 実智ちゃんのことがすっげぇ好きな俺の気持ち、どうすればいいの? 教えてよ……」
抱きしめられる力は強いのに、包み込む手の温もりが優しい。泣いている様な息づかいに胸が震える。
「大好き、実智ちゃん。ずっと実智ちゃんのこと考えて過ごしてた。会いたくて、触れたくて、やっと会えたんだよ。俺の我慢ももう限界だからさ、受け入れてよ、さっきのキスみたいに簡単に。なんも考えなくて良いから、俺はこの先もずっと、実智ちゃんだけしか愛さないから」
あたしの頬を撫でる望くんの瞳からこぼれ落ちる涙をそっと拭ってあげると、どちらともなく唇が触れ合った。
緩めたネクタイとワイシャツのボタンが外れていく。
もう、何も言わなかった。何も考えたくなかった。
目まぐるしく回る日々が充実していると錯覚していた。終わった過去をたまに思い出して感傷に浸ったりして、あたしは毎日毎日つまらない日常を過ごしていた。
平凡で良い、普通で良い。
それってなんだろう。
あの頃、小さくて可愛くて、素直でわがままだったのんちゃんがいきなり男になって現れて、動揺してしまったけれど、真っ直ぐな愛は、あの頃のまま素直だ。
あたしに触れる全てがそう思わせてくれる。
望くんを好きになっても、許されるのかな。
「好きだよ、実智ちゃん……」
「……ん……」
「……ちゃんと実智ちゃんも言って?」
「ん?」
ちゅ、と頬に触れる唇が少し膨れている。
いや、でも、あたしにとってはやっぱり望くんはほとんど初対面で、こんなに愛してもらっていて申し訳ないけれど、それを言うのは違う気がする。
なんか取ってつけた様で嘘っぽい。だからさ。
「……好きとは言わない」
完全に酔った勢いで流されちゃってるんだ。そんな適当な関係に、好きとか言えない。
「……じゃあ、好きになってくれるまで愛すから」
「え……っ!」
結局、望くんの熱に溺れてしまったあたしは、尽きることなく久しぶりに愛されていると感じる幸せな夜を過ごしてしまうことになった。
****
翌日、帰ったはずの望くんはキャリーケースにバックパックを背負ってまたあたしの家に現れた。
「実智ちゃん、末長くよろしくお願いします」
「……え」
深々と頭を下げる望くんの姿に、頭がついていかない。
え、なに? どういうこと?!
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