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2.やって来た、わんこ
大荷物を抱えて望くんがやって来たのは、よく晴れた日曜日の昼下がり。
洗濯物を干して部屋の掃除をして、お昼はパスタでも茹でるかとお鍋にお湯を沸かし始めた矢先のことだった。
とりあえず、近所の目があるので望くんを部屋の中へ引き入れたのは良いとして、一応客人だしと、出してあげたお茶を啜る望くんに振り返った。
「今なんて?」
「実智ちゃんと一緒に住まわしてください」
真面目な顔で何をいうんだこの子は。
冷静になるために、ぐつぐつと煮えたぎった鍋にパスタを投下する。
「もう俺たち付き合ってるんだよね?」
「は?!」
「え? 違うの?」
「付き合ってないでしょ」
「じゃあ昨日愛し合ったのはなんだったの?」
それは……
あたしが単に望くんに好意を持たれたのが、嬉しかったから。
久しぶりのキスの感触と抱きしめられた感覚に酔っていたのを良いことに、気の知れた人だと分かってつい、身を任せてしまった。
慣れているのかいないのか、そんな手つきの望くんがなんだか可愛くて。愛しいと感じてしまって、つい。
ただ、それだけだったんだよ。
「ごめん。ちょっと酔っていたし、だから忘れて」
鍋に沈んでいくパスタを絡まない様に混ぜた。背を向けた向こうの望くんがどんな顔をしているのか気になりつつも、見れない。
「……ほら望くん、若いしカッコいいし、本当は彼女いるんじゃないの? 言ってたじゃん、キスもそれ以上も上手くなったって。大丈夫! ちゃんと上手だったよ。だからさ、普段愛してる子のことちゃんと大事にしてあげなよ」
ほんと、あたしなんかに構ってないでさ。
冷蔵庫からソーセージを取り出す。ピーマン、玉ねぎ、にんじんをまな板に乗せて細く薄く切りながら、あたしは笑った。
「そんなん嘘だよ。俺実智ちゃん以外興味ないし」
ん?
思わず振り返ると、機嫌が悪そうにテーブルに頬杖をついて膨れている望くんがいる。
「あ、一回だけ練習と思って中学ん時にキスしたことあったけど、ぜんっぜんなんかよく分かんなかったし。高校入ってから、ようやく実智ちゃんがあの時あいつと何してたか理解して、俺もその時にちゃんとできる様にって、告られた子と一回だけしたことあったけど、やっぱりぜんっぜんよくわかんなかった!」
え。なにそれ。
「は? じゃあ高校以来シてないって事?」
なんか、その見た目で昨日のグイグイくる雰囲気は女に慣れてるんだと思っていたけど。
「うん。実智ちゃんじゃないと無理」
いや、だってさ。そんなん知らないよ。知っていたとはいえ、ほぼ初対面の女の家に上がり込んでヤルとかそういうの慣れてるからじゃないの?
「昨日はやばかったの!
あっさりキスさせてくれるし、家に入れてくれるし、求めても拒まれなかったし、順調過ぎて怖いくらいだったんだって。しかも……実智ちゃん、めっちゃ可愛かった」
思い出して顔を赤くする望くんに、あたしまで恥ずかしくなる。
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