12.好きとは言わないとは、言わない

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「あ、美味い。また腕あげたよね、実智ちゃん」 「そう? ありがとう」  夜景を見ながら並んで食べる夕飯も毎日の楽しみになった。仕事はほどほどに。だから、料理もいつもよりも手を掛けて望くんに美味しいって言ってもらえるように勉強してる。  それを素直に認めてくれる瞬間が、なによりも幸せだ。 「俺が片付けておくから、実智ちゃんお風呂良いよ。ほら、行っていって」  食器を下げることもさせてくれずに急かされて、あたしは笑ってしまう。 「明日休みだねー、どこ行く?」 「まだ片付けもあるし、家でのんびり?」 「うーん。望くん意外とインドア派だよね」 「ん? そんなことないよ。外に行ったらさ、あんまり実智ちゃんにベタベタできないじゃん?」 「うー……やっぱそれかぁ」 「うん、俺の頭ん中そればっかだよ?」 「……だろうね」  にっこにこで食器を洗っている望くんに、あたしは呆れた目を向ける。  そして、望くんの横まで近寄ると、 「望くん、もう少し大人になってね、そうしたら、またプロポーズしてね」  そっと耳元で囁いて、あたしはバスタオルを抱えてリビングを去った。 「あーーー!! 俺もう大人なのにっ!!」  叫ぶ望くんの声に、あたしは笑ってしまった。  結婚する前にこんな素敵なマンションを手に入れて、可愛い可愛い旦那候補が現れて、毎日毎日愛されていて、あたし今、とてつもなく幸せだ。  この先に何かがあるとしたって、望くんの笑顔も言葉もあたしに向かってくるなにもかもが、大丈夫。そう思わせてくれる。  今度、二人で実家に帰ろう。  そして、お母さんをびっくりさせよう。  湯船に浸かりながら、そんなことを考えてにやけてしまった。
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