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トイレは1つしかなかったため、何度か戸をノックされた。本当に申し訳ないが、途中で出るわけにもいかずノックを返して座り続けた。この病気のせいで、特に外のトイレでは迷惑をかけてばかり。でもなかなか治らない。
コンビニ内を探すが、遥子先輩の姿は見えない。さすがに怒って車内へ戻ってしまったか。
僕はコンビニの駐車場に停めてある営業車の運転席に、険しい顔つきをした遥子先輩を見つけた。まずい、叱られる…。覚悟しなきゃ……。
助手席のドアを開けるなり、僕はすぐさま先輩に謝った。
「楠木先輩、お待たせしてす、すみません。お腹を下していて時間がかかってしまいました。仕事に支障が出てしまい、その…」
「言い訳はいいから早く座って」
「い、いえ、決して言い訳ではなくて…」
「あなた何分トイレに入ってた?」
「さ、35分です…」
「そうよね、時間かかり過ぎよね。次もまだアポイントがあるのわかってる?私だけじゃなくて、お客様を待たせてるのよ?」
「はい、それはもちろん。これでも早く出たつもりなんですが、思ったより"処理"に手こずって、その……」
僕はカンカンに怒る先輩の目を見れず、恥ずかしそうに視線を下に落として頭を掻いた。
「本当はトイレでスマホいじってたんじゃないの?ソーシャルゲームとかさ。他の部署でも、"モンスター新人"がやってたらしいし」
「絶対にそんなことはしてませんよ。先輩、そういうあらぬ疑いをかけるの、よくないですよ」
穏和な僕も、先輩の安易な発想には頭がきて、やんわりと反論した。
「どうだかね。とにかくもう少し早く出なさいよ。せめて15分とか」
「そ、そのことなんですが。じ、実は……」
サボっていたと疑われているこの悪い流れを逆に味方につけ、ついに僕はもう隠せまいと、自分の持病を打ち明けることに決めた。
「実は僕、か、過敏性腸症候群なんです!」
大きく目を見開き、先輩の目を見ながらはっきりとした口調でそう"告白"した。
それを聞いた先輩は一瞬沈黙したが、すぐに聞き返してきた。
「過敏性腸症候群!?何その長い名前。腸の病気とか?」
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