収まらぬ腹痛

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収まらぬ腹痛

「ふう、やっと終わった」 僕は会社のトイレから出るなり、そう独り言を漏らした。幸い誰も姿は見えなかった。 昼飯はラーメンを食べたが、やはり腹痛を起こし下痢をした。30分以上トイレの個室に引きこもって用を足し、ゴシゴシと丁寧に"後始末"をしていたら、気づけば昼休みも残り5分だ。 「あー、なんでいつもこうなんだろう。朝しっかり薬も飲んできたのに。これじゃあ来週からの営業研修で恥ずかしい思いをするに違いないよ、トホホ……」 僕は洗面所で手を洗いながら苛立(いらだ)った。 そう、僕は"ある病気"を(わずら)っている。精神的な要因が強いその病は、僕みたいな不安や緊張が過度にひどい人間が(かか)りやすい。 今新卒社会人になったばかりの22歳だが、高校生からこの病気に悩まされ、幾度となくトイレに駆け込む日々を送ってきた。 しかし一般雇用で就職した僕は、この病気のことを会社側には伝えていない。就職活動でこのようなことは不利になる発言だし、何しろ恥ずかしくてなかなか口に出せない。障害者雇用なら多少配慮してもらえるだろうが、それ以外の精神疾患はないため障害者手帳は取得しなかった。 とはいえ僕が選んだ職種は営業で、会社は薬の販売を主に行っている。車での移動もあり、長い時間外に出る日も多い。 「あー、なんで営業職になんか就いちゃったんだろ。事務か技術職を選べば良かったな」 今更ながら大学3・4年生の時、しっかりと就活をしなかったことを大いに後悔した。 来週は先輩の女性社員と、得意先を車で回ることになっている。1日の労働時間の大半をその先輩と一緒に過ごすため、まだ新生活にも慣れていない状態では緊張も相当なものになると予測できる。確実に腹痛に襲われるだろう。 あーあ、最悪。 仕事、休みたいな。
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