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実は○○なんです!
今日は営業研修の初日。
2つ年上の楠木遥子先輩の運転で、薬を買ってくれる得意先の家を何軒も寄って、新人の僕を紹介する。いわゆる挨拶回りだ。
3軒目の挨拶が終わり、車の中で遥子先輩に注意を受けた。
「ねえ堂島くん。挨拶さ、緊張しすぎて顔が引きつってるんだけど。もうちょっとリラックスできないかな?自然に笑顔が出せないとさ、お客様に気に入ってもらえないから。第一印象って大事だと思うよ」
「は、はい!すみません……」
堂島というのは僕の名字だ。
一般論過ぎる忠告だが、その意見はごもっともである。
でもね先輩。
初めての仕事、初めて会うお客様。
やはり緊張して胸バクバクです。そして…激しい腹痛。
「じゃあ次行く前に、一回コンビニ寄ろっか。そこでお菓子でも食べてちょっとリフレッシュして…」
「こ、コンビニでと、トイレ寄ってもいいですか?なんかその、お腹の調子が悪くて…」
「それは大変ね。いいよ、急いで向かうけど我慢できる?」
「はい、何とか」
気を使ってくれた遥子先輩の言葉に甘えて、僕はこのタイミングを利用しトイレに行くチャンスをものにした。だがもちろん今は仕事中であり、先輩を待たせてしまうのだから、何が何でも早く済ませなければならない。いつものように、30分以上も"踏ん張る"わけにはいかないのだ。
車がコンビニに着くと、僕はすぐさまトイレに入ろうとした。すると遥子先輩がまた優しく気遣う。
「堂島くん。焦らなくてもいいからね。私はゆっくり買い物してるからさ」
「は、はい!ありがとうございます!」
遥子先輩の可愛らしい笑顔を見ると、益々恥ずかしくなって顔を赤らめる僕。
僕のようなメガネの小太りでオタクな容姿の後輩に、課長はなぜ彼女みたいな美人で仕事のできるキャリアウーマンを指導者役につけたのか。まるで謎だが、ぽっと惹かれてしまう。
「うーん、うーん」
トイレの中でいつも通り唸りながら必死に"闘い"、下痢をしたためお尻を拭くのも一苦労だ。結局早く出ようと焦りすぎたのが裏目に出て、35分も経過してしまっていた。
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