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もうどのくらい時間が経過しただろうか。
ララから逃れながら手当たり次第に部屋を探索し続けて、イクスは疲弊していた。
一向に手がかりが見つからない上に、常に追われ続けているのだ。心身共に摩耗しない方がおかしかった。
しかし、それももうじき終わるだろう。いよいよ屋敷の最上階に突入した。
恐らくこの先が男達の生活区域だろうとイクスは読んでいる。
これまでと同様に幾つか客室を回った後、一際重厚な趣の扉に入った。
イクスは目を見張る。
予想通り、これまでとは違い生活感がある。矢継ぎ早に、しかし今までより丁寧に部屋を調べた。
見つかったのは、一冊の日記だ。
「……これは」
悪いと思いながらも、脱出の為だと日記を開く。文面から察するに、水色髪の男の物だった。
『2035年××月××日、ショウゴのパートナーとして私は生まれた。今日から私達はペアだ。共に支え合っていこう』
『ショウゴとも大分打ち解けてきた。今日は彼の秘密を知った。何やら、幼馴染みもこの世界に来ていて、彼女に片思いをしているらしい。何とも微笑ましいものだ。実を結ぶといいな』
『ショウゴが幼馴染みにパートナーに惚れたと打ち明けられたらしい。私のペアは身を引くようだ。今日は二人で慰めの会をしよう』
それはこの世界に来たとあるペアの日常。何処にでもある、パートナーからプレイヤーへの慈愛に溢れた日記だった。
しかし。
『幼馴染みが死んだ。例のパートナーに告白して、振られたらしい。自殺だった。ショウゴが「こんな事になるなら諦めなければ良かった」とずっと泣いている。私が、私が支えなくては』
『近頃の彼は変わってしまった。仲睦まじいペアを見つめては、憎悪を向けている。何やら違法な手段を手に入れたようで、私にも術を掛けようとしている。恐らくこの日記が最後になるだろう。ショウゴの幸せを祈る』
そこで文字は途絶えていた。イクスは言葉を失う。
大切な幼馴染みの死。それが彼を突き動かしていたのか。
パートナーというものは、基本的にプレイヤーの害になる事は言わない。だというのに振ったということは、その幼馴染みのパートナーに心が芽生え、彼なりに誠実に考えた上での答えだったのだろう。誰も悪くない筈の出来事だった。
だというのに、ショウゴという面布の男は、間違った方向に憎しみを燃やしている。
水色髪のパートナーには悪いが、それを正そうとも、彼の幸せを祈ろうとも思えはしない。事情を知ったから何だというのだ。ただ脱出させてもらえればそれでいい。
イクスはそう己に言い聞かせる。同情してしまいそうな心には見て見ぬふりをして。
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