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三日目
次にララの意識が浮上したのは、翌日になってからの事だった。
全身が倦怠感に包まれているが、右手だけは固く、暖かい何かに包まれている。
嗚呼、起きなくては。
目を覚まして初めに目にしたのは、ララの右手を己の両手で包みながら項垂れて座っているイクスだった。
「……ずっと傍にいてくれたんですか」
ララが声を絞り出す。それは自分で思っているよりも、ずっとか細かった。
イクスは俯いたまま答える。
「このくらい……どうって事無いさ」
「あれからどうなったんですか」
「あれから……」
♦
「ララ!ララ!!」
イクスの叫び声だけが虚しく響く。
すると、俄に外が騒がしくなった。
屋敷を囲い込むように大きなゲームウインドウが複数出現し、音声が流れ出る。
「こちら、エルラド戦記オンライン事務局です。サーバー名ロイエラ、アカウントk-dr3867PY、プレイヤー名ショウゴを、度重なる違反行為・及び違法行為の為アカウント停止処分と致します」
「くそっ、予想より早かったな……!」
「尚、当局といたしましても自体を非常に重く見ており、警察と連携の上しかるべき対応を取らせて頂きます」
「待て……!僕は、僕はまだ――」
♦
「……それきり、どちらの声も聞こえなくなったよ」
「…………そうですか」
結局、あの人は何がしたかったのだろう。ララは考える。失った幼馴染みの復讐なのか、それとも、本気でゲームシステムを変えようとしたのか。どちらにせよ、狂ってしまった彼の考えなど、理解できる筈もない。
二度と関わることはないのだ。ならば、今はこの時間を、先程から落ち込んでいるペアに使わなくては。
「どうしてそんなに沈んでいるんですか?……私が自分のお腹を刺したこと、怒っているんですか?」
イクスは首を振る。
「……情けなくて」
「情けない?どうして?」
「俺、何も出来なかった。ララを止めることも、あいつらを倒す事も、ララを……助けることも。既存の回復アイテムじゃどうにもならなくてさ。事務局に頼み込んだんだ。ララを助けて欲しいって。俺達も被害者だから、特例として回復して貰えた」
本来、この世界でパートナーは死ぬ事が無い。クエストで傷を負ったりしても、ヒットポイントがギリギリ残る範囲になると自ら離脱するような仕組みなのだ。しかし、今回はララが自ら望んで致命傷を負った。あのままでは、例えゲーム世界であってもプログラムの致命傷を治しきれずに死を迎えていたであろう。
「結局……結局俺は、現実世界と何も変わらないんだ。太っているのを馬鹿にされて、気が弱くてどうしようもない俺のままだ」
イクスは益々項垂れる。そうか、私が自分を刺した事で、彼を傷つけてしまったのかとララは思案する。
やや考えると、ララは口を開いた。
「イクスさん、この世界が終末を迎えるまで、あとどのくらいですか?」
「……あと1時間だ」
「そうですか。折角なので、外へ散歩へ行きませんか?最後くらい、景色を楽しみながらお話しましょう」
イクスは一つ頷くと立ち上がる。
病み上がりのララの身体を支えながら、二人は家を後にした。
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