三日目

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 「わあっ!綺麗ですねえ」  外に出ると、あちこちに橙の光が目映く点在していた。最後故の特別仕様だろうか。多くの灯籠は飛ばされている。  イクスとララは家の前に設置しているベンチに腰掛ける。目の前には小さな池が有り、水面に月と灯籠の光を反射させていた。 「ああ、本当に綺麗だ」  幻想的な光景を見て、イクスの気持ちも僅かばかり浮上したようだ。そのまま暫く景色を楽しんでいると、不意にララが口を開いた。 「私は、イクスさんがイクスさんで良かったと思います」 「……どうして?俺は今回何も出来なかった。本来は怒るべきララの自傷に助けられるような、情けない男だよ」  イクスの瞳に再び陰りが宿っている事を認識しつつも、ララは続けた。 「いいえ。私の為に敵に斬りかかって、私の為に走り回って、私の為に取り乱してくれる、最高の恋人です」 「ララは本当の俺を知らないからそう言えるんだよ」 「本当の貴方は、何もマイナス面だけで作られている訳ではない筈です。例え『イクスさん』がいいとこ取りの存在でも、それだって紛れもなく本当の貴方なのですから」  あと三十分。その時間で、ララは懸命にイクスに訴えかける。 「……嬉しかったんです。貴方が私を作ってパートナーにしてくれた事も、私を本気で好いてくれたことも。それが貴方だったから、嬉しかったんです」 「ララ……」 「だから、どうかたった一度の失敗で悲観しないで。いいえ、失敗だとすら思わなくて良いんです。貴方は今回、最善の行動をし続けました。私が保証します」  イクスの目に光が宿る。ララが愛嬌たっぷりに微笑んでみせると、イクスはくしゃりと泣きそうに顔を歪めた。 「……消えて欲しくないなあ。ララ、俺は君に居なくなって欲しくない」  イクスがララを抱きしめる。ララは微かに目を見開くも、応えるように背中に腕を回した。 「こうしてずっと支えててくれよ。俺、すぐに弱気になるからさぁ。誰かが、ララが隣に居てくれないとダメなんだよ。なんで居なくなるんだよぉ」  情けない本音が涙と共にボロボロと零れてくる。それで構わなかった。今此処には二人だけなのだから。 「私、知ってるんですよ。レイラさんと一緒に、イクスさんがこの世界を終わらせないよう何度も嘆願したり、署名活動を行っていたこと。ずっと、戦ってくれていましたよね」 「結局通らなかったなら、何の意味も無い」 「またそういう事を言う。それはあくまで結果じゃないですか」  肩越しでもララが苦笑いしているのが分かる。イクスとて、困らせたい訳ではない。しかし、気持ちが止まらない。 「ララが居なくなったら、俺、生きていけないよ」 「それは困りましたね。私の夢はあの世でおじいさんになったイクスさんと再会することなのですが」 「本気で捉えてないだろう。俺にとっての世界は、もうこのエルラドなんだ。世界が滅んだら人が死ぬのは当たり前だろ?」 「ダメですよ。自ら死んでしまうのだけはダメです。大事な人に、万が一のことがあると思うと耐えられません。私、ずっと待っていますので。沢山お土産話聞かせて下さい」 「……分かった」 「はい、約束ですよ」  周辺の光が一気に強まる。灯籠からの光かと思ったが、この世界全体が光っている。  嗚呼、もう――。 「どうか忘れないで。私が得たこの心は、永遠に、貴方の物です。心が有るって本当に素晴らしい。心を持った貴方は、絶えず素晴らしい」 「ララ……」 「さようなら。電子の海で、貴方と出会えたことに感謝を」    強い光は徐々に互いの姿を見えなくさせ、やがて、音は途絶える。  そうしてこの世界は、終わりを迎えた。  
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