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エピローグ
ベッドの上に横たわっていた男は、頭にしていたVRゴーグルを取り外した。 暗い部屋の中、放置していたパソコンの画面だけが、青白く光っている。
VRゴーグルを見つめ直す。
嗚呼、終わってしまった。彼にとっての青春、彼にとっての人生とも言える二年間が。
迎えた最期は、実に呆気ないものの用にも感じるし、重厚な物語を読み終えたかのような感覚もある。
「……また新しいゲーム、探さなきゃな」
何でも無いことのように呟いてみる。言葉とは裏腹に、新作に手を伸ばす気には到底なれなかった。
「ララ……」
思い出すのは愛しい恋人の事。NPCで有りながら、その身に心を宿した少女。ゲームの構造上、身体の繋がりこそ無かったが、その想いは繋がれていたと、男は確信している。
ショウゴの主張もまた、無視出来ないものであった。プログラムと恋など、気持ち悪いと。エルラドの中では普通でも、一般的には蔑まれる事も有る少数派だという事も事実なのだ。
それでも、ララといられて幸せだった。例えプレイヤーに都合良く作られた存在だとしても、卑屈になりきった彼には自分の良いところを見てくれるララが救いだった。誰に何と言われようと構わない。男はララを愛している。
感傷に浸った後、再びVRゴーグルを装着してみる。もしかしたらまだ、なんて、一縷の望みを賭けて。
『本ゲームはサービスを終了しました。六年間の間ご愛顧頂き、誠にありがとうございました』
そこには、黒い画面に白い文字だけが浮かび上がっていた。
「……」
これからどうしようか、と考えて。数年ぶりにカーテンを開けると、今が朝である事に気付いた。
暗い部屋のまま、ララやあの世界ともう会えない事に絶望して首を吊ってしまおうか、とサービス終了前は考えていたけれど。
「……約束、したもんな」
一先ずは、散々心配と迷惑を掛けた家族に、久々の挨拶を交わしてこようか。
男はVRゴーグルを一瞥し、電源を落として引き出しに仕舞い込むと、出入り口前に立つ。
扉を、開けた。
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