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一日目
一日目。
イクスとララは先ず所属ギルド「幸運」へと赴いていた。
依頼を求める冒険者ら独特の喧騒を背に、とあるテーブルを陣取っている二人組を目に留める。
「おはよう」
声を掛けられた二人が振り向くと、各々パッと表情を明るくさせた。同じパーティーでもあるゴルキーとレイラだ。
「ようララ、イクス。早いな」
「おはようございます」
ララが丁寧に会釈する。立ち上がったレイラがイクス達の背後に回り、肩を軽く押して席を勧めた。
「おはようさん。座りなよ」
「ありがとう」
言われるまま腰を降ろすと、レイラ自身も適当な椅子を引っ張ってきて、四人で顔を突き合せる。
「恋人同士、クエストでもこなしに来たの?」
「それもあるんだけど、ゴルキーとレイラに話があってきたんだ」
話?と首を傾げられる。
「最後の挨拶に来た」
イクスとララは一度しっかりと顔を見合わせ一度頷く。
「二年間、先輩だった二人には世話になりっぱなしだった。右も左も分からなかった俺達とパーティーを組んでくれて、仲間になってくれて、本当に感謝してる。今まで、ありがとう」
と、同時に向き直り頭を下げた。膝の上で拳を握る。この気持ちが、少しでも伝わるように。
その場に沈黙が落ちる。周囲の音が酷く遠く聞こえた。
何分、何秒そのままだっただろうか。ふと口を開いたのはゴルキーだった。
「馬鹿野郎。礼を言うのはこっちの方だよ」
その言葉に、イクスとララは漸く顔を上げた。最初に目に映ったのは、二つの笑顔。その眦に薄らと浮かんでいるものは、敢えて見ないふりをした。
「俺達みたいな荒くれ者に、手を貸してくれてありがとうな」
鼻を啜る音がする。誰のものかは分からなかった。
不意にレイラが隣の席にいたララを抱きしめる。
「……寂しくなるね」
「レイラさん……」
ララもその背に腕を回し、ぎゅっと力を込めた。
ゴルキーはそんな女性陣を一瞥すると、目元を擦りイクスに顔を向ける。
「そうだイクス、お前これ持ってけ」
ポケットから取り出されたのは、赤い水晶のような石。何かのアイテムのようだ。
「最近、パートナーと不自然に仲違いをして、果ては殺し合うっていう事件が頻発しているんだ。このカルガ石は、万一パートナーが死んでも蘇らせる事ができる、なんて噂がある代物だ。持って行け」
「そんなの、貴重な物じゃないか。パーティーが解散するのなら、ゴルキー達にだって降りかかってくるかもしれない。それは受け取れないよ」
「いいんだよ」
レイラがララを解放し、会話へと混ざる。
「ペア同士で戦うなんて、私達にとっては楽しそう、の一言だよ。戦い第一だからね。これは昨日、イクスとララの為に必死で取ってきた餞別だからさ。受け取ってよ」
「でも……いや、分かった。有り難く受け取るよ」
大事に鞄へと仕舞い込む。
「達者でな」
「あと二日間、悔いの無いようにね」
全員で立ち上がり、改めて握手し合う。離れるのを惜しむように、固く固く握り合った。
「ああ、そっちもな」
「さようなら、ゴルキーさん、レイラさん」
依頼書を一枚手にして、イクスとララは冒険へと旅立った。
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