二日目

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 市場を出た二人は、ララの手当をしようと一旦帰宅した。  荷物を置き、擦り剥いた手の甲を手当する。 「うん、このくらいなら直ぐ治りそうだ」 「包帯まで巻くのは大袈裟ですよ。でもありがとうございます。ハンカチ、洗って返しますね」  丁度良い時間ということもありそのまま昼食を摂り、最後の材料である薬餌水を手に入れる為もう一度家を出た。  ♦  「薬餌水、良い物が手に入りましたね!」 「ああ、これでノイルの知恵石が作れる」  両手で抱える程の壺を抱え、二人で帰路に着こうと街中を歩く。まだまだ陽は高く、これから錬金術を行うなら十分夜には終えることが出来るだろう。 「でも、薬餌水を買うだけならララは留守番でも良かったのに、珍しいね」  言い切ってから、イクスは自身の失言に気付く。  そうか。常時ならそれでもいいかもしれないが、今は。  ララが曖昧に微笑む。 「もうすぐ、終末ですから。出来るだけ一緒に居たいんです」 「ララ……」  迫る事実を口にしただけで、気が重くなる。そうだ。もうすぐ終わりはやってくるのだ。忘れていた訳ではないが、何処かで考えないようにしていた。  降りてきた沈黙を打ち破ったのは、イクスでもララでもなかった。 「あの、ちょっといいですか」  その声には聞き覚えがあった。短く、酷く無機質に。 「貴方は……市場で出会った、」  声を掛けられたイクスが目を丸くする。立っていたのは、市場で出会った金髪に面布と水色髪の青年達だった。  話しかけてきたのは、面布の青年で、パートナーの男は相変わらず口を閉ざしている。 「それ、貴方のパートナーですよね」  それ、と青年が指したのはララだ。イクスは内心不快に思いながら、努めて冷静に返す。 「そうですが、何か?」 「さっき、市場で手当しているのを見ました。随分距離が近いんですね。恋仲か何かですか?」 「は、はい……」  明け透けな言い方に思わず二人揃って照れて言い淀んでしまう。しかし、次に発された言葉に思わず顔を顰めた。 「止めた方がいいですよ、そういうの。パートナーと恋仲なんて」  ララが口を挟む。 「あの、一体何故そのような事を仰っているのですか?」 「お前には言ってない。口を開くな」  ぴしゃりとした物言いに、思わずララも押し黙る。 「人の真似事なんてして、笑ったり照れたりして、異常ですよ。パートナーなんて所詮は僕達の世話役なのに、心なんて要ります?僕は要らないと思うけどな」  何なんだ。こいつは。イクスは内心怒りに燃えていた。パートナー同士は一心同体も同然に生活を送る。そこに心はあって当然、いやあってこその日常だというのに。しかし生憎、イクスは揉め事の一切から逃げて来た人間だ。一方的に虐められることはあっても、喧嘩なぞしたこともない。だから、一言一句を発する度震える膝を叱咤激励しなければならなかった。 「そうですか。しかし俺達のペアは『好きな事に妥協しない、心がある事を喜んで全力で楽しもう』が方針なので」 「え?本気で言っているんですか、それ。心がある事を増長させようなんて。あいつらは付け上がると、思わせぶりな態度を取って簡単に人の心を弄ぶんですよ。知ってますか、知らないですよね」 「思わせぶりって……それは僕等の自己責任も有るんじゃないですか。勘違いするのはこっちなんだから」 「親切で忠告しているんだから、聞いた方が身のためだと思うけどな。それだけ心が有ると勘違いした個体は危険ですよ」  そうだ、と面布の青年は一歩踏み出し身を乗り出す。 「僕、パートナーの心を取り除く特殊な力が使えるんですよ。処置しましょうか」 「ふざけるな!何なんだあんたは!!」  思わず激しい剣幕で怒鳴る。すると面布の青年も呼応するように様相を変えた。 「貴方の為を思って言ってるのに……はっきり言いましょうか! 、気色悪いって言ってるんですよ!!」
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