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いただきます
わたしの先祖は人食い鬼だったらしい。
そして、わたしはその血を特に強く受け継いでいる──いわゆる“先祖帰り”しているらしい。
何も特別なことなんてないし、求めてないのに。
わたしはそのせいでずっと、ひとりぼっちだ。
* * * * * * *
「い、……行ってらっしゃい」
「……うん、」
いってきます。
そう返す前に、母は玄関のドアを閉めてしまう。大きな音で、すごい勢いで閉まったドアを、一瞬見つめる。小さい頃からずっとだからもう平気だけど、わたしは何もしないよ。
「……お腹、空いたな」
朝ご飯もしっかり食べたのに、変だな。
もしかしたら、みんなで一緒に食べないとお腹いっぱいにならないのかな──そんなことしたことないから、わかんないや。
わたしの“先祖帰り”は、生まれた頃からハッキリわかる形で出ていた──額の、ちょっぴり出っ張った痣。両親を含めて親戚はみんな、その痣を見てわたしと喋っていた。そしてみんな揃ってわたしじゃなくて、その痣に向かって言ってきた。
『どうか、自分のことは見逃して』
意味はわからなかった。
どういうこと、と訊いてもニコニコしながら遠くへ行ってしまう。みんないろんなものをくれたけど、誰もわたしの話を聞いたり、一緒に遊んだりはしてくれなかった。
だから遊ぶのはいつも外だったけど、人に話しかけることがうまくできなかった。遊ぼうと言っても遊んでくれるかわからないし、もし痣を見て家のみんなみたいな怯えたりされたら苦しい……そんな気持ちばかり膨らんで、誰かと遊ぶことも、話すこともろくにできないまま、いつのまにか大きくなっていた。
本当に、このままずっとひとりきりで生きていくんだろうなっていう将来像がリアルに押し寄せてきて、たまにどこかへ消えてしまいたくなるときもあるくらい。どこかへ消えて、わたしの痣なんて何も知らない人ばかりのところなら──わかってる、それでもきっとわたしは、誰かと関わったりなんてできないんだってことくらい。
晴れた空の下、恋人みたいな雰囲気の子たちが仲良さそうに寄り添い歩いているのが見えた。春が近いとか言われてもまだ寒いもんね、そうしたくなるよね。……あまり見ていても気付かれそうだから、すぐに目を逸らした。
ひとりきりが何となく辛くて恋みたいなことをしたこともあったけど、結局余計に人が怖くなるだけだった。何をすればよくて何をしたらいけないのか、考えても考えてもわからなくなって、息苦しくて。それでもそういうものだと耐えていたら結局別れを告げられて。結局残ったのは人が怖いという気持ちと、ズキズキと蝕んでくる痛みだけだった。
そんなだから、人と関わりたいなんてどうしても思えなくて。それでも、除け者みたいに……いや、腫れ物に触れるように扱われ続けるのも寂しくて。
そんなどっちつかずのわたしなんて、それこそ本当に鬼にでも食べられちゃえばいいのに。
そんなこと思いながら歩いていたら、とても綺麗な人を見かけた。
お昼の太陽を浴びて金色に輝く髪の毛も、ふわふわした感じの、色味を揃えてあるっぽい耳当てとコートも、整った横顔も、全部、全部、あまりに綺麗で。
何故か、とってもお腹が空いた。
気が付いたとき、目の前にはさっき見た綺麗な顔が転がっていて。わたしの手はべったりと血で濡れていて。
「ひぃ……っ!?」
いつの間に来たのか、狭くて薄暗い路地裏には赤い血と、動物にでも食べられたみたいにぐちゃぐちゃになったお肉の塊が散らばっていて。
ビリビリに引き裂かれた服は、今わたしの足下に転がっている首の持ち主──お腹の空くとっても綺麗な人が着ていたものにそっくりだった。
「うそ、うそ……!」
おかしい、こんなのおかしい!
「なんで、……え、え??」
こんなのおかしいよ、なんで?
なんで、わたしは今、お腹がいっぱいなの?
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