0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
私は蟻だよ
千葉県にある田舎、九月上旬だった。
まだ虫の声が聞こえてくる。
「ねぇ陽太。私実は蟻なんだよね」
高校の帰り道、凛はそう言うと手に持った缶ジュースを飲み干した。
勘弁して欲しいものだ。ただでさえ夏休み明けで気分が上がらないというのに。夏休みの間、ずっとクーラーの効いた部屋にいたせいでこの始末だ。
「暑さにやられたのか?まぁ無理もない」
軽くあしらった俺だったが、凛とは少し前に最近友達になったばかりだ。
夏休み前、凛は転校して来て俺を見るなり走り寄って「仲良くしましょう!」だ。
確かにこの田舎の学校に男は少ない。とはいえ俺よりマシな男は何人もいるはずなのになぁ。すこしおかしな奴である。
夏休みに入ってからも凜とはよく遊んだ。時には宿題を一緒にやったり、この畑だらけの田舎町を案内して回った日もあった。
夏休みが終わる頃には町の皆から「お似合いのカップル」なんて事も言われたが、二人で猛反対した。
もちろん夏休みが明けても毎日一緒に帰っているが、そんな平凡な日々も彼女の告白で幕を下ろした。
「こんな田舎に転校してくる都会人が遂に蟻になりやがったぞ」
「うんだから都会から来たってのも嘘なんだ」
凛の突然の告白に俺は訳がわからなくなっていた。前からおかしな奴だとは思っていたが、今回は流石に度が過ぎている。蟻?蟻って虫の?触角もなければ強靭な顎もない、もちろん足も2本だ。
俺は咄嗟に疑問を投げ返す。
「なんで蟻なの?」
「なんでってどうゆうこと?私は蟻……。ただそれだけの話だよ」
彼女は自分が蟻であることを言って、俺にどんな反応を求めているんだろうか。
意思疎通が難しい。その点だけが彼女から触角を生やしている。
彼女は都会で流行った冗談を運んできた。そして俺に面白い返しを求めているに違いない。そう思った俺はクーラー室から出した溶けかけの頭を使って言葉を紡ぐ。
「凛が蟻だったなんて、ありえない!……これでいいか?」
凛は少し驚いた顔を見せた後、苦笑いをしてこう言った。
「……え?今のはダジャレを言ったってことでいいの?あーえっと……笑った方がいい?」
蟻は上空一万mから落下しても死なないという話を聞いた事があるが、彼女は人間も死なないと思ってるらしい。じゃなきゃおかしい。
最初のコメントを投稿しよう!