透明人間になった君

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二人分の食器が入っていた棚から、一人分の皿が消えた。お揃いで使っていたマグカップが、一つ消えた。洗面台に置かれていた歯ブラシが、一本消えた。部屋の隅に置かれていたギターが、消えた。そして賑やかな声が、消えた。 時計の秒針の音が、電気をつけた部屋の中に響く。望月雫は椅子に座り、これから夕食を食べようとしていた。しかしーーー。 「また二人分、作っちゃった……」 目の前に並んでいるのは、二人分のハンバーグやサラダたち。一人になってしまったのはもう一ヶ月も前のことだというのに、雫は時々二人分の食事を用意してしまう。 『うっま!これ、めちゃくちゃうまい!お店開けるよ!』 子どものようにハンバーグのソースを口元につけ、目をどこかキラキラと輝かせながら笑い、こちらが恥ずかしくなるほど褒めてくれたあの顔は、もうこの場所にはどこにもない。 「ハァ……」 わざとらしいほどに大きなため息を雫は一つ吐いた後、ベランダに出てタバコに火をつける。付き合っていた彼がタバコを吸わず、お酒も飲まない人だったため、禁煙と禁酒を今までしていた。 「やっと禁煙・禁酒できるようになったのに……」
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