第三話 史上最悪なアイツとサッカー部事件

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  ꕤ ꕤ ꕤ    ざわついた室内がある程度静けさを取り戻すと、中央の椅子に腰掛けた火室はさっそくといった感じで口を開いた。   「まず最初に確認しておきたいんだけど、今回のサッカー部粛清の件について、サッカー部は突発的な部員数・戦力の減少を理由に大事な試合を辞退。それによって風紀委員会が『成績不振』を理由に除籍処分を決定した、っていう流れでいいんだよね?」   「ええ、そうよ」    火室の問いかけに淡々とそう答える花柳副委員長。   「辞めてった部員たちの退部理由やそこに至る経緯にはノータッチ?」   「当たり前じゃない。わたくしたちは結果が全てですから、『事情を考慮する』という選択肢はありませんの。個人的な理由なんて興味もないし存じ上げませんわ」   「……そう」    副委員長とそこまでのやり取りを終えると、火室は次いで室内の隅にかたまっているサッカー部員の群れに視線をなげ、「浅羽部長、どうすか?」と尋ねる。    するとかたまりの中から一歩前に歩み出た短髪の男性――ジャージに『ASABA』と書かれているので彼が浅羽部長だろう――が、神妙な面持ちで頷いてからその質問に答えた。   「経緯については、それで間違いない。想定外の急な退部者が相次いでしまって……試行錯誤はしたけれど、結局、充分な戦力が保てそうになくて、今季の大会は見送ろうという判断に至ったんだ。でもそれは、あくまで次回の大きな大会に備える前提だったんだけど……」    その猶予もなく、風紀委員会に横暴な『除籍勧告』を食らってしまった、というわけだ。    浅羽部長の悔しげな目線が、離れた先ににいる花柳副委員長の視線とぶつかり、ひりついた空気が流れる。    なお、ここにいるサッカー部員の数はおよそ十名前後ほどで、皆が思い思いに拳を握り締め、一縷の望みをかけるよう浅羽部長の発言を見守っている。   「了解。じゃあ、もし万が一にでも、サッカー部が無事に人員及び戦力確保できて予定通りに大会へ出場できれば、除籍勧告は取り消し?」    突拍子もない火室の問いかけに、花柳副委員長はぴくりと眉をつり上げると、   「そうなるわね。ただ、もう時間もないし今からでは無理でしょうけど」    と、毅然とした態度で肯定する。    火室がちらりと浅羽部長に視線を投げるが、彼はひどく申し訳なさそうに項垂れて吐露する。   「もともとその約束だった。だから、なんとかできないか最後の悪あがきもしてたんだけど……残念ながら無理だった。辞めた奴らは寮に閉じこもっちゃって話せるような状態じゃなかったし、外部から人を集めるにもうちは進学校だから難しくて……」    難色を示している浅羽部長の言葉通り、先ほど遭遇したサッカー部員・吉田先輩の姿が今ここにはない。    おそらく退部者を連れ出すのに手間取っている、あるいは応じてもらえず四苦八苦しているのだろう。    火室は「まあそうっすよね」と納得したように頷き、   「じゃあもう一つだけ。浅羽部長、今、この室内にいる風紀委員の中で、接点のあるヤツっている?」    と、妙に突っ込んだ質問を繰り出した。   「え、接点?」    キョトンとしたように火室を見る浅羽部長。   「そ。部活以外のプライベートでね」   「プライベート……ええと……」    火室に念を押されれば、彼はぐるりと風紀委員を見渡したのち、やや言いにくそうに答えた。  
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