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「昔、同じ珠算教室に通ってた小林さんと、皇系列のサッカークラブに通ってた水無瀬くんかな。珠算教室は肌に合わなくて、紹介で入ってたサッカークラブは遠かったから送迎の問題があって小学校低学年の時にやめちゃったけどな」
わずかに潜められた声で浅羽部長が答えると、名指しされた風紀委員の二人は怪訝そうにこちらを見る。
「そう……」
その答えを聞いて、口の端をつり上げる火室。
気になっていた点を一通り聞き終えたのか、ふいに火室は黙って静観していた私を振り返り、言った。
「……だってさ、雪原」
「ん?」
「だとすればやっぱり、お前の言った通りだ。あっちこっち巡って裏取りしてきた甲斐あったなァ」
「……」
え? え⁇ え……⁉︎
ちょっと待て。
火室がなんかウンウン頷いて相槌を求めてくるんだけど、いやだから私は何も言ってないしまだ何もピンときていないのに……。
恨みがましい目で火室を見るが、
「(話合わせとけよ……?)」
「…………」
ヤツが目線だけで言外にものすごい圧をかけてくるため(そしてその場にいる風紀委員、サッカー部員の双方から強烈な視線が飛んでくるため)、
「え、ええ、そうね……」
思わず相槌を打ち、見栄を張ってしまうという……。
「……ちょっと雪原さん。裏取りってどういうことですの? 刑事ぶるのは結構ですけど、まるでわたくしたちが犯罪者かのような言い回しはやめてくださらない?」
いやだから、それ言ったの火室。
「刑事オタクが刑事ぶってなにが悪いんだよ。ただのオタクになるだろ? つか、今回のこの件、犯罪とまではいかなくても場合によっちゃ裁判沙汰になったっておかしくねえ案件なんだぞ。なあ雪原」
フォローがフォローになってないし、盛りすぎなトスをあげないでくれ火室。
「まあね……」
頷いちゃったけど。
「裁判……? ずいぶんな言いがかりですわね。この皇で、ここまで正々堂々とわたくしたち風紀委員会に楯突いてきたのは雪原さん、あなたがはじめてよ。一体なにが言いたいんですの?」
「それは……」
ざわざわとざわつき始める室内。
まだ私なりの答えが見つかってないというのに、より一層、私に集まってくる視線。
「……」
多分、きっと。
救いを求めれば、おそらく火室は助け舟を出してくれるだろう。
でも……それは悔しい。
だってこのままじゃ私、完全に火室のパペットじゃないか。
私は将来、多くの難事件を解決する敏腕女刑事になりたくて、勉強だっていっぱいしてきたし、推理小説だって読み漁って視野を広げてきた。
それなのに……と、内心で焦りを滲ませながら、でも表向きは冷静を装って拳を握りしめていると、
「(自信持てって雪原。お前はちゃんと自分の目で確かめてきたんだろ)」
「(火室……)」
「(退部理由や部内の事情を詳しく 調査・把握もせず、サッカー部の奴らの将来を潰そうとしてる不届者なんて、遠慮なくお前の正義の鉄拳ぶちかましちまえよ)」
「……!」
その言葉を聞いて、ハッとした。
(調査も、把握もしてない……?)
(え、でも、待って)
(〝あの人〟はあのとき確かに――)
一つの綻びが引き金となって、次々と湧いてくる疑問点。
『狼と揉めた』
いや、おそらく揉めていない。
『浅羽部長に暴力を振るわれた、いじめを受けた』
いや、部長はそんな人じゃないし、彼にはそれをするメリットもない。
辻褄の合わない退部理由――。
つまりそれらは……。
(……ああ、そうか)
――偽証?
(だとすれば、全てが繋がるじゃないか)
ようやく辿り着いた私なりの結論。
悔しいけど、私が解いたというよりは火室に導かれた結果といった方が正しいかもしれない。
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