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でも、これでサッカー部の人たちが救われるのであればそれで本望だ。
私は顔を上げると、妙に居心地が悪そうに、ソワソワとあたりを見渡している人物めがけて、ツカツカと一直線に歩いた。
犯人の前で立ち止まり、片手に腰に手を当てて胸を張る。
ホシをオトすよう力強く真っ直ぐに見つめると、相手は一歩後退り、周囲の風紀委員からは「え?」「えっ??」と困惑の声が上がった。
「サッカー部の件について、あなたが全部仕組んだことなんでしょう?」
「……」
「風紀委員会会計、水無瀬春巻」
効果音をつけるならデーンって感じ。
水無瀬は青ざめた顔をこちらに向け、風紀委員たちは仰天の声をあげて困惑の顔を互いに見合わせた。
「……」
「何か言いたいことがありそうね水無瀬春巻」
「いや、春巻きじゃなくて春正……」
「……水無瀬春正……」
目を逸らしながらポソリと抗議されたので、私も小声でひそかに訂正する。
水無瀬先輩は一瞬、バツが悪そうに口をもごもごと動かしていたが、
「ちょ、ちょっとどういうことなの水無瀬⁉︎」
「‼︎ ふ、副委員長! ち、違います何かの間違いです……!」
花柳副委員長がぎろりと睨みつけると、慌ててその場を取り繕おうと声を荒げていた。
「当たり前じゃない! 貴女も貴女で言いがかりも甚だしいわよ! 何を根拠に……」
「言いがかりではありません。先ほど廊下で、サッカー部の吉田先輩が風紀委員の方達に除籍勧告の取り下げを嘆願しているところに偶然居合わせたのですが、この件の担当者である水無瀬先輩は吉田先輩に対し、『〝狼〟と揉めたり、部長の隠れた暴力が原因ですごすご辞めていくような恥晒しな奴らのことなんて』と発言してましたよね」
「……っ」
「でも、今しがた火室が確認したとおり、風紀委員会はサッカー部員の退部理由にまでは関知していないとのこと。だったら水無瀬先輩はどこでその情報を手に入れたのかしら?」
犯人を追い込むように詰問すると、水無瀬先輩は途端に目を泳がせて言った。
「そ、それは……き、決まってるじゃないか、噂で聞いたんだよ」
「狼山高校の話ならともかく、部長の暴力の件は、サッカー部の吉田先輩曰く部内でのみ囁かれていた噂だそうです。現役のサッカー部員としては部外に出したくない話でしょうしね。それなのに、部外者のあなたは噂で聞くことができたんですか?」
「そ、そうだよ……ほら、退部者……そう、やめた奴らから偶然聞いたんだよ!」
「先ほど浅羽部長は『(退部者は)寮に閉じこもっちゃって話せるような状態じゃなかった』と、言ってたのに?」
「う……」
「ちょ、ちょっと水無瀬……一体どういうことですの⁉︎ あなたは一体、どこからそんな情報を……」
「いや、花柳副委員長、違うんです、だからそれはっ」
「――それは、『聞いた』からではなく、『言わせていた』からですよね? 水無瀬先輩」
「……っ」
「なっ⁉︎」
名推理をする女刑事のごとくピシッと指差して問いただすと、水無瀬先輩はサッと顔色を変え、俯いた。
まるでその事実と現実から目を背けるように。
一層どよめく室内。
なおも腑に落ちないといった表情の花柳副委員長や風紀委員、サッカー部員達のため、私は淡々と言葉を続ける。
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