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ꕤ ꕤ ꕤ
「……」
――意識を落としてから、どれくらいが経っただろう。
頬に、ほのかな温もりがあたった気がして、ふっと意識が引き戻される。
「……、」
「……お」
ぼんやり目を開けると、私のすぐそばに白いワイシャツ姿で座る火室の姿があって。
「…………」
「おはー」
目が合えば、ヤツは憎たらしげな顔で微笑み、ひらひらと手を振って。
「……、、、っ⁉︎」
「ほらよ」
ヤツは懐にしまっていた〝それ〟を、徐ろに私の頬へそっと押し当てた。
「?????」
意味がわからない。
火室が横たわる私にホットロイヤルミルクティーのペットボトルを差し出してきた理由も。
火室が自分の制服のジャケットを脱いで、横たわる私にふんわりとかけている理由も。
そもそも火室がここにいる理由も。
「あ、ったか、い……」
言わなきゃいけないこと、聞かなきゃいけないことはたくさんあったと思うんだけれど、真っ先に出てきた言葉はそれで。
「やるよ」
「な、んで……」
「チクワのお礼」
火室はそう言って、ものすごく場違いなお礼を私の手の中にそっと収めながら「ゴチ」と、笑った。
「……」
意味わかんない、と呟いた私。不覚にも鼻の奥がツンとした。
散々馬鹿にして。
散々邪険にして。
あれだけ言われてた連絡だってしなくて。
自分一人で何とかできると思ってここまできて、慢心が招いたこの結果で。
なんでこの男は、一言も責めなければここまで私に優しくできるのだろう。
「……あり、がと」
――絶対死ぬと思ったのに。
命拾いした安堵感と、身に染みる火室の優しさで、しばらく泣きそうになるのを歯を食いしばって我慢してたけれど、それでも火室は揶揄ったり馬鹿にしたりせず、何も言わずただ黙ってそこにいてくれた。
ペットボトルで暖をとり、両手と共に心がわずかに温まると、ゆっくり起き上がる。
体を起こしてから気付いたけれど、縄で縛られていたはずの両手は自由になっており、部屋の寒さも幾分和らいでいる。
冷風口に視線をやると、ファンの目の前に木箱のタワーができており、それで冷風の流れを多少は塞いでいるようだった。
まあ、そうはいっても、まだ充分に寒いんだけど。
「……」
体を起こして火室と横並びになった私は、少し迷った後……意を決して火室のそばに寄り、体を密着させる。
火室はだいぶ驚いた顔をしていたけれど、そこはもう見て見ぬふりをして、私は自分の体にかかっていた火室の制服の上着を、彼の肩に半分かけた。
まあ、元は火室のものだし。
背に腹は変えられないし。
二人で一つの上着に包まると、密着した体温も相まって格段に温かくなった。
「なんでここにいるの」
意地悪な言葉が飛んでこないうちに、自ら質問を繰り出す。
すると火室は、
「さあ、なんでだろうね」
なんてすっとぼけたことを言ながら、私の背中にそっと手を伸ばす。
クッと引っ張られるような感触があって、なんだろうと思っていると、火室はその手を私の目の前に差し出しながら言った。
「まあ、頑固な刑事オタクちゃんが俺に連絡をしないまま、危険な行動に出るだろうことはあらかじめ予測してたから。だから……あらかじめこいつを忍ばせておいたんだよね」
火室がその手を開くと、丸くて小さい機械みたいなものがポツンと転がっていた。
「これ……」
「GPSの発信機♡」
「なっ……」
なるほど……。
そういえば確か、お昼に密着したときに背中をチョンと触られた気がしていた。
あれはコレをつけていたのか……と、妙に納得する私。
プライバシーの侵害だと騒ぎたい気がしないでもなかったが、そのおかげで命拾いしたわけで、今さらそれを咎める気はなかった。
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