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エピローグ
ꕤ ꕤ ꕤ
――狼山事件が解決してから約数日。
皇学園の校庭を彩っていた桜の花びらも完全に散り終わり、瑞々しい新緑の青葉が徐々に視界を埋め始めた頃のこと。
「……っくしゅん!」
「姉貴‼︎ 風邪すか? 風邪っすよね……⁉︎ 任せてください、今すぐにバビロン買ってくるっすバビロン」
「おい金閣、風邪といえばエフタックイブだろエフタックイブ。姉貴〜、自分に任せてください。すぐに買ってきますんで。それであの、もしよろしければ……それ飲んだ後にでも、ぜひともわが狼山高校の幹部室へご足労いただければと……」
駅と学校をつなぐ通学路を足早に歩く私と、そのあとをセカセカ追いかけながら、ごまをする金髪男と銀髪男の姿があった。
「……」
この金髪と銀髪、見覚えはあるもののいまだに彼らの名前をよく存じ上げていないのだが……。
言わずもがな、彼らは以前私が狼山高校に潜入した際に道案内をしてくれた金髪頭と銀髪頭で、今や二人は、二村派が一掃され内部の序列が入れ替わった狼山高校でトップ2と3の座に君臨しているらしい。
それがめでたいことなのかどうなのかはよくわからないし、彼らのことなんてどうでもいいのでその辺の事情はさておいて。
そんな奴らが白昼堂々と私のあとを追いかけ回しているだなんて一体何事かというと。
「だから遠慮するっていってるじゃない。私はアンタたちのところのトップに会う気は毛頭ないし、特に話すようなこともないから」
「そこをなんとか〜! 先日、裏切り者の二村に囲まれたうちの総長を、ハヤテのようのに助けにきてくれた姉貴の鬼神の活躍っぷりは我が校の伝説になってるぐらいなんすよ⁉︎」
「そうっすよ姉貴! 総長もえらく感謝してて、あの女をここへ連れてこい〜って毎日いってきかなくて大変なんすから⁉︎」
彼らに力説されている通り、どうやら先日の一件(屋上で裏切り者の二村一派に取り囲まれた一ノ瀬を鬼神のごとく救出した件)から、彼らのボスであり総長――一ノ瀬浬――および狼山高校の奴らに、やたら特別視されるようになってしまったらしい。
おかげで朝、登校する際には正門前にズラリと並んで『押忍、お早う御座いやす姉貴!』とヤクザみたいな挨拶をされるし。
体育で校庭に出ると、向こうの敷地内から『雪原嬢こっち向いて♡』的な手作り推しウチワを持って野次を飛ばされるし。
下校の時間は『押忍、お疲れ様っす姉貴!鞄お持ちしやす!』などと周り囲まれるし。
それらが原因で、皇学園内ではまた一つ『刑事オタク=なぜか不良に人気説』がまことしやかに囁かれ、無駄な貫禄がまた一つついてしまって正直、かなりゲンナリしている。
「よくわかんないけど……言いたいことあるなら自分で来ればいいじゃない。それに私は日々、事件解決で忙し……っくしょん!」
「はい風邪! はいそれやっぱり絶対風邪っすよ姉貴! 悪いことは言いませんから、今すぐ我が校の医務室に……」
「おいそこのクソ不良ども。だからなんで狼山の医務室なんだっての。こいつは皇の生徒なんだし、皇の最新機器満載の医務室で充分だから心配するふりして人の〝女〟に手ェ出してんじゃね……えくしゅっ」
「⁉︎」
「うおっ! で、出た!」
ずるずると鼻を啜りながらジト目で現れたのは、やや不機嫌そうな顔つきの火室だ。
「で、デタァ……! なんか姉貴といつも一緒にいる邪魔なヤツ!」
「ちょっと火室⁉︎ 誰があんたの女よ! っていうかそこの金髪、あんたも『いつも一緒』だなんて誤解を招くような言い方しないでよね! 私たちはただ学園の平和のために……くしょんっ」
「『約束』、守ってくれんだろ? それに俺たちはもう、噂が噂をよんで学園公認のカップルになりつつあんだから、狼山の奴らが出る幕なんざねえっつうの……へくしょんっ」
ほぼ同時に抗議をしつつクシャミまでハモる私と火室。
さらに同時に鼻を啜る私たちを見て、金髪と銀髪男が余計に眉を顰めた。
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