エピローグ

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「奴はまごうことなき火室冥。あの火室財閥の……」 「ちっ。いけすかねえ野郎だぜ。しかも二村の件が絡んでるとはいえ、姉貴と同時に風邪引くなんていかがわしいことこの上ねえんだよ。このままじゃ総長の入る隙もねえし、狼山の安泰のためにもひっそりやっちまうか……?」 「そうだな、それがいいかもしれねぇぞ」 「おい、全部聞こえてるっつうの。いい加減協定無視した言動ばっかしてっと、お前らのボロ校舎、皇の財力で潰すぞコラ……?」  火室が二人の間に入りものすごい剣幕で奴らを見下ろすと、金髪と銀髪はあわてて後退った。 「くっ……」 「仕方ねえ、今日のところは退くぞ金閣」 「了解、銀閣」  そそくさと逃げていく二人組。  やはり彼らが誰なのかいまいちよくわからなかったが、京都の観光名所っぽい奴らだってことだけはよくわかった。 「ったく。助けてやったっつうのに、なんなんだよアイツら。余計な気苦労ばっか増やしやがって……」 「まあね。でも、彼らの証言のおかげで例の『いかがわしい集団』も無事に摘発されたわけだし……」 「いたいた。おーい、雪原くん、火室くーん!」  ――と、事件を振り返り雑談を交わしていると、背後から誰かに名前を呼ばれた。  振り返れば木戸先生が片手に怪しげな資料の束を抱えて手を振っている。  手を振り返すと木戸先生はこちらへやってきて、満面の笑みを浮かべた。 「やあ、君たち。春野くんの件ではだいぶお世話になったね。おかげで彼女も狼山高校の奴らと無事に縁が切れたみたいで、今は健やかなスクールライフを送ってるみたいだよ」 「そうですか……。それは何よりです」 「ふうん? まあよかったっちゃよかったけど、うちの相方騙して狼山に連れ込んだ春野って女にお咎めなしってところがイマイチぬるいんだよなーキドセン」  安堵の表情を浮かべる私とは正反対に、やや不満げな表情の火室。すかさず木戸先生がフォローを入れる。 「はは。火室くんはキツいお仕置きがお好きですもんね。物足りないかもしれませんけど、彼女も脅されてたわけだし悪気があってやったことじゃありませんしそこは我慢してください、ね?」 「へいへい。……んで、それはともかく。なんだか手に怪しげな資料たくさん抱えてるみたいだけど、また仕事?」 「ええ、よく分かりましたね。でもここにある秘密の案件の数々は、今までと違ってちょっとばかし厄介な事件かもしれませんよ〜?」  やはりその手に持っていたものは彼なりの事件簿らしい。  再び顔を見合わせた私たちは、今一度木戸先生に向き直る。 「今回は、じゃなくて今回も、だろ?」 「構わないですよ。伊達に刑事オタクしてるわけじゃありませんし、私に解けない謎はありませんから」 「(よくいうぜ。俺がいないとまともな謎解きはおろか、危険で無茶なことばっかするくせに……、)」 「(失礼な。別にアンタなんかいなくても私一人で……、)」 「「はくしょんっ」」  毎度のごとく意地の張り合いの構えを見せたところで、同時にくしゃみをする私たち。  それを見て木戸先生はくすくすと笑うし。  道ゆく皇の生徒たちは、『ねえあれ噂の火室くんと刑事オタクの雪原さんじゃない?』『なんで同時に風邪引いてるのかしら』『もしかしてそういうことですの? きゃあ♡』なんて、色めき立ってあらぬ噂話で賑わい始めるし。 「ほらアンタのせいでまた変な噂立った……」 「言わせとけよ。そのほうが仕事捗るし。なんならマジで付き合ってやろうかコラ?」 「いや全力で遠慮しますけど⁉︎」 「ちゃんということ聞いて、とことん『付き合って』くれる約束だろ?」 「語弊…………!」  この人、ふざけてるんだか真面目にいってるんだかわかりゃしない。  でも、コロコロと笑うその顔はどこか憎めなくて。 「……さあさあ。イチャイチャするのもいいですが、第三生物室でミーティング始めますよ。休憩時間終わっちゃいますから急いでくださいね?」 「イチャイチャしてません!」 「邪魔すんなよキドセン……へくしっ」  微笑ましげに声をかける木戸先生に慌てて抗議をしつつ、もう一度だけ火室を振り返る。 「もういいから早く行くわよ」 「OKハニー♡」  差し出された手はもちろんのことペシンと跳ね除けて。 「「へくしょんっ」」  今日も私たちは、皇学園の秩序と安寧を守るため……事件解決に身を乗り出すのである。  ー完ー
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