21 敵対

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21 敵対

「それから、俺もトーヤから侍女って人のこと色々聞いてますけど、厳しい決まりがたくさんあるんですよね? そんな中でミーヤさんができるだけのことやってくれてたってのも、よく分かってます。アーダさんも色々知りたいこともあるだろうけど、もうちょい様子見てやってください、お願いします」 「アラン様……」 「様っての、何回聞いても慣れないなあ。でも、それもあれなんでしょ、決まりなんでしょ」  アランが少しだけ冗談っぽくそう言って見せると、アーダが少しだけ笑ったように見えた。 「ハリオもすまないな」  今度はディレンが部下にそう言って頭を下げる。 「わわわ、船長、俺はいいです、大丈夫ですから」 「そうか、そう言ってもらえると助かる」 「え、そんだけ?」  ミーヤとダルとアランがアーダに精一杯色々と話したのとは違い、ディレンがたったそれだけで終わらせたので、思わずハリオが拍子抜けのような声を出す。 「いや、大丈夫なんだろ?」 「いや、そりゃ大丈夫ですけど、なんだかなあ」  ハリオの納得できないがするしかないという声に、一気に場が(なご)んだ。 「でも正直な、本当に知っていいことなのかどうかは分からん。このまま知らん方が幸せだってこともあるようなことだ」  ディレンが空気を引き締めるように言う。 「もっと本音で言うと、おまえとアーダさんがなんで巻き込まれてるのかも分からん。俺はまあ、自分の勝手でこの問題に口突っ込んだからな」 「それでいくと俺なんて、トーヤたちと会わなかったら今頃この世にいませんしね」  アランも続けて言う。 「けど、確かにハリオさんとアーダさんは今のところはなんでかよく分かりません。ただ、なんの関係もない人間を巻き込む、なんてことはないと思うんですよ、これまでの話から判断するに」 「そうかも知れんな」 「だからきっと、何かの意味があるんです。そう思ってお二人とも、もう少しだけ我慢してください。そのうち何か見えてくるかも知れませんから」  そう言われてハリオとアーダが顔を見合わせる。 「分かりました、それまでは何を聞いても何を見てもなかったことといたします」 「俺も」 「よろしくお願いします」  アランが代表のようにそう言って2人に頭を下げた。 「それから、これは何回も話してきたことだけどな」  ディレンが疑問を口にする。 「八年前、キリエさんって侍女頭とルギ隊長もかなり関わっただろ、このことに」 「ええ」    ダルがそう答え、ミーヤも横で黙ってうなずく。 「それがなんで今回はいないんだ?」 「それなんですよね」  これまでにも何回か話題にしてきたが、答えは出ない、出さないままだった。 「俺もリルとそんな話してました」  やはり当時に関わった者はみな抱く疑問のようだ。 「もしかしたら今回は敵対するって可能性は? 申し訳ないけど、俺は、今回はそんな可能性があるんじゃないかと思ってます」  口にしにくい言葉をアランがずばりと投げてくる。 「そんなことは考えたくありません!」  反射的にミーヤがそう声を大きくした。 「キリエ様が私たちと、そんなことはありえません!」  今までに見たことがないミーヤの姿に全員が驚く。 「ミーヤさん落ち着いてください、あくまで可能性、です」 「それでも、それでもあんまりです!」 「すみません、俺の言い方が悪かったです」    アランがそう言い、やっとミーヤも、 「あの、すみません、声を荒らげてしまいました」  と、頭を下げた。 「ミーヤさんの気持ちはよく分かります、俺だってキリエさんはいい人、素晴らしい人だと思ってます。ですが、同時に恐ろしい人だとも思ってます」  アランはなるべくミーヤの気持ちを落ち着かせるように、言葉を選んだ。 「トーヤが以前言っていました、あの人だけは敵に回したくないって。そして俺もそう思っています」 『私はこの宮のために、シャンタルとマユリアのために生きてまいりました。それはいわば託宣に従うために生きてきたということ、託宣を行わないということがこの世界の運命を狂わせるかも知れない、そうマユリアがおっしゃるのなら、従います……』  あの時、八年前にマユリアが「黒のシャンタル」を聖なる湖に沈める、そう言った時、キリエが言っていたことをミーヤも思い出す。  キリエはマユリアたちがシャンタルを助けるために必死になっていることを知っていた。だが、その上で、もしもシャンタルが死ぬ運命にあるのなら、自分もそれを受け入れる、そう言い切ったのだ。 『私はこの身も心も宮に、シャンタルとマユリアに捧げております。いっそ、自分が沈めと言われた方がどれほど心安らかだったことか……』  そう言いながらも、その耐えられない痛みに耐える人、それがキリエだとよく分かっている。 「トーヤは最初は石頭で融通(ゆうづう)()かない嫌なおばはん、そう思ってたみたいです。ですが、よくよく付き合っていったらあんなすごい人はいない、そう思うようになったとも言ってました。だから、その上で言うんです、もしも、今度のことでマユリアたちが、宮の上部(じょうぶ)が俺たちと反対の方向を向くとしたら、キリエさんはなんのためらいもなくこちらに牙をむきますよ」  アランの言葉が事実であると、ミーヤにもよく、よく分かっていた。
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