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1月。
紅白と金銀の艶やかな正月の松飾りが取れるか取れぬうちに、世は節分・恵方巻き・チョコレートの3色に染まる。
こと鮮やかであるのは、まことこのピンク色であろう。乙女の愛を形にする年1回の超巨大イベント。
デパ地下は戦場と化していた。
世界中の最高峰のパティシエが腕によりをかけて、大量生産した目も覆わんばかりの極上スイーツが山脈のように積まれている。
それに群がるそれこそ年齢層は若年層から老齢層まで、幾重にも人間地層ができそうである。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で入店人数を制限され、例年のような人集りではないものの、たった1つ、意中のチョコレートを得るために発せられる乙女達のエネルギーは半端なものではなかった。
これを「殺気」と言わずに何と形容しよう。
アフリカ大陸のサバンナで獲物を狙う野獣のような目で彼女は、ある一点を見つめていた。
「やはりわたくしのために。これは運命の出会いね!」
がっちりむっちりした筋肉質の体を両腕で包み込みながら、満足そうにほくそ笑んだ。
ワゴンの中にあれだけ山積みになっていた板チョコはたった一袋になっていた。
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