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客の顔を一瞬凝視するがすぐに表情を取り戻し空いている部屋の鍵を手渡すニーナ。
「わかりました1週間のご予定ならこちらの部屋になります」
この宿屋は宿泊日数が短い客は階段に近い客室、滞在の長い客は廊下の奥の客室の鍵を渡す事が決まりだ。
宿泊日数の少ない客は出入りが多くなる為階段に近いほうが良かろうという父の配慮である。
まあそんなのは人によって違うのであまり当てにはならないのをニーナは知っているが――
取り敢えず彼女はこの黒ずくめの客に両方の客室の中間辺りにある部屋の鍵を渡すことにした。
黒ずくめの客は鍵を受け取ると
「ありがとう」
そう言うと、すぐ眼の前にある階段を軽い足取りで上がって行った。
「どうしたの二ーナ?」
ポカンと見送る娘に気が付き皿洗いを終えた母親が厨房から顔を出した。
「あの人、女の人? 男の人? どっちかわかんなかったの」
まっ黒ずくめの衣装とトラウザーズという姿に騙されたのだろうか、それとも腰の長物のせいなのか。
すっかり男性客と思い込んでいたニーナだったが、宿帳には『エイヴェリー・リュシェール』というどっちつかずの名前が書き込まれていた・・・
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