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1 宿屋のニーナ
その人物はこの村にある唯一の宿屋に黒い駿馬に乗って現れた。
黒い艶のあるゆったりとしたシャツと黒いウール素材のジレ。
黒いトラウザーズの膝下を覆う使い込まれた黒い革のブーツは手入れが行き届いているのが遠くから見てもよく判った。
ソードベルトに吊り下げられた旅人用の少しだけ短めの剣は濃い茶色の鞘に収まっている。
宿屋に併設されている馬屋番にチップと愛馬の手綱を手渡すと馬の背を撫でる。
黒い馬は少しだけ不満げにブルル、と嘶いた。
宿屋の看板娘のニーナは1階にある食堂に用事があるんだろうなと思いながら窓から見えるその様子を見ながらテーブルを布巾で丁寧に拭いていた。
泊り客にしては軽装で、なんの荷物も持っていないように見えるからだ。
窓から見える人物はカウベルを鳴らして宿屋のドアを開けて入って来ると迷うことなく宿泊用のカウンターの前に立った。
慌てて布巾をテーブルに置いたままカウンターの内側に戻るニーナ。
「いらっしゃいませ、お泊りですか」
笑顔で取り繕う看板娘。
「ああ、そうだね。1週間位かな」
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