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「あ、アイスはお嫌いでしたか?」
心もとない結城の声に、ハッと我に返る。
「あ、いや、アイスは好きです。……特に、じぇ、ジェラートは……」
「良かった」
実に爽やかな笑顔だ。これがギャップと言うものか。昨夜の結城さんはメガネをしていなかった。きっとメガネを取るともっと可愛らしく、とてつもなくいやらしくなってしまうのではないか……。
レンズ越しではない可愛らしい目が、目の前の結城の目と重なる。
昨日、激しく何度もされた余韻を微塵も感じさせない。知らない人間ならすっかり騙されてしまうところだ。しかし、よくよく見れば、爽やかな笑顔のあとの表情など、なんとも憂いを帯びて艶めいている。やはり、昨日の余韻が身体に残っているのかもしれない。そんな身体で外を歩くのは、きっと酷だったことだろう。
尻が辛いだろうと、市五郎は結城へ再度、座布団を進めた。
「一緒にアイス、食べましょう。結城さんはどうぞ座っていてください」
「急がなくても大丈夫ですよ。小分けになってるんです」
結城は袋の中から四角い箱を取り出した。蓋を開け中の物を持ち上げ見せる。牛乳瓶の半分サイズくらいだろうか、小さなかわいらしい陶器の器だ。集乳缶の形をしている。それを机に置き、プラスチックのスプーンを出した。
「スプーンもあります。六個入りなので食べない分だけ冷凍庫へ入れましょう。味が全部違うらしいんですよ。ミルク、クリームチーズ、かぼちゃ、イチゴ、抹茶、リッチエスプレッソ。高山さんはどれがいいですか?」
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