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「……お待たせしました。では頂きましょう」
「はい」
ニッコリ微笑んだ結城は、市五郎がアイスを手に取ったのを確認してから器を手にした。ああ、なんてお利口なのだ。と、隙あらば邪な妄想が顔を出す。
「うむ……これは、美味しい」
市五郎の言葉に結城は「そうですか」とまた嬉しそうな表情になる。
そんな無邪気に微笑んでも私には通用しないと言っているのに。
市五郎が心の内で繰り返す。
「あ、ちょうどいい具合に溶けていますね」
結城はほどよいジェラート感を出しているアイスを掬い上げ、すでに食べ始めている市五郎に「ほら」と見せてくる。
そんな子供っぽい仕草も、なんというか……ナチュラルだ。演技とは思えない。これもまた、結城さんの素顔なのかもしれない。そう、信じてみたくなる。そんな自分に「いやいや、お前はとことん甘いな、市五郎」と、もう一人の市五郎がたしなめる。
「あー、イチゴ美味しい。濃厚だけど酸味もちゃんとあって!」
「ああ、そ、そうですね……結城さんは……」
いや、なにを言うつもりだ? 男の恋人がいるのかと聞くつもりなのか? 変な質問は墓穴を掘るぞ。……掘る……。いやいや、そうじゃなくて、今、結城さんとトラブルを起こすのはマズイじゃないか。新しく私の息子を……じゃない、担当を請けおってくださっているのに。
市五郎は脳内で自分の頬を思いっきりビンタした。
プライベートは関係ない。割り切らなくてはいけない。
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