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「これ、ジェラート、デパートで買ってきたんですよ。お取り寄せスイーツフェアというのぼりが立っていて……あ、すみません。なんですか?」
「いえ、なんでもありません。あ、コーヒーもってきます」
キッチンからコーヒーの香りが漂ってきたのを助け船に立ち上がる。
「あ……結城さんはブラック飲めますか?」
「はい。ブラックで」
「良かった。この家にはスティックシュガーも、ミルクもないので」
「そうなんですか。高山さんもブラック派なんですね」
「そうです。ゴミが出ないのも気に入っています。基本、合理的なので」
「あぁ、なるほど。たしかにめんどうですもんね」
台所へ入り食器棚からコーヒーカップを二つ出す。ホッとして深く息を吸い込んだ。今のところ、ただの出版社の人間と、物書きの人間の会話になっているはずだ。コーヒーをカップに注ぎ入れながら、ふと思う。
こんな風にあたふたするのは何年ぶりだろう。やはり私のようなどうしようもない朴念仁の人見知りには、結城さんのような強烈なキャラクターは心臓に悪い。
トレーにコーヒーを乗せ書斎へ戻り、結城の前へカップを置いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
結城はアイスを置いてコーヒーカップ手に取り「いただきます」とコーヒーをすする。
「美味しいなぁ。アイスとコーヒーって合いますよね」
「そうですね。それに、暑いのが苦手なので、つい部屋を冷やしてしまうのですよ。だからホットが美味しいです。あ、寒くないですか? エアコン」
「はい、大丈夫です。お気遣いなく」
爽やかに一点の曇りもない笑顔で受け答えする結城。
その清楚な笑顔に引き込まれるように市五郎の口は開き、気がついたら口走っていた。
「昨日……」
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