三、訪問者

8/13

88人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
「これ、ジェラート、デパートで買ってきたんですよ。お取り寄せスイーツフェアというのぼりが立っていて……あ、すみません。なんですか?」 「いえ、なんでもありません。あ、コーヒーもってきます」  キッチンからコーヒーの香りが漂ってきたのを助け船に立ち上がる。 「あ……結城さんはブラック飲めますか?」 「はい。ブラックで」 「良かった。この家にはスティックシュガーも、ミルクもないので」 「そうなんですか。高山さんもブラック派なんですね」 「そうです。ゴミが出ないのも気に入っています。基本、合理的なので」 「あぁ、なるほど。たしかにめんどうですもんね」  台所へ入り食器棚からコーヒーカップを二つ出す。ホッとして深く息を吸い込んだ。今のところ、ただの出版社の人間と、物書きの人間の会話になっているはずだ。コーヒーをカップに注ぎ入れながら、ふと思う。  こんな風にあたふたするのは何年ぶりだろう。やはり私のようなどうしようもない朴念仁の人見知りには、結城さんのような強烈なキャラクターは心臓に悪い。  トレーにコーヒーを乗せ書斎へ戻り、結城の前へカップを置いた。 「どうぞ」 「ありがとうございます」  結城はアイスを置いてコーヒーカップ手に取り「いただきます」とコーヒーをすする。 「美味しいなぁ。アイスとコーヒーって合いますよね」 「そうですね。それに、暑いのが苦手なので、つい部屋を冷やしてしまうのですよ。だからホットが美味しいです。あ、寒くないですか? エアコン」 「はい、大丈夫です。お気遣いなく」  爽やかに一点の曇りもない笑顔で受け答えする結城。  その清楚な笑顔に引き込まれるように市五郎の口は開き、気がついたら口走っていた。 「昨日……」
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加