三、訪問者

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 書斎へ戻った市五郎へ結城が言った。 「読ませていただきました。こちらはこのまま持ち帰りますね?」 「あ、はい」  結城の反応は「ダメ」と言うものではなかった。持ち帰るということはオーケーなのだろうが食いついている様子でもない。自分では判断できないから森さんに判断を仰ぐのかも……、などと考える。  市五郎の胸の内で小さなため息が漏れる。その直後、結城が口を開いた。 「あの。それと先ほど、高山さんが閉じられたウィンドウの、アレは短編ですか?」  ギョッとして固まる。ほんの一瞬だったのに、結城は見逃していなかったのだ。  アレは、アレは……。  それこそ、昨日の結城をモデルにして書いたものだ。あの二人からはどうしたって爽やかな純愛ストーリーは生まれてこない。 「そ、そう、です。まだ途中なのですが……えっと、さっきのとは、まったく違う系ではあります」 「途中……」  結城は唇をすぼめ、考えるように俯いた。が、すぐにお伺いを立てるような表情で市五郎を見上げる。 「……見せていただく……なんてことは可能でしょうか?」  心臓がギュッと掴まれる。  ま、まさか、チラッと読んだだけで主人公のモデルが結城さんだとバレてしまったのだろうか?  まさかそんなことはと思いつつ、市五郎の背中に嫌な汗がツーッと伝った。しかし、見せられないとはとても言えない。相手は編集者なのだ。作品の途中でチェックし、アドバイスを貰えるのは有難いことだ。途中だから無理だ。なんて言えるのは大御所くらいのもの。  市五郎は震える手でマウスを握り、ファイルをクリックした。 「い、いいですよ。……これです……」
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